酔狂時雨
天より、雨飛す。
___からアん、ころオん、からアん、ころオん。
しとしとしとしと降り続ける雨の中に、響いたひとつの足音。
旦那ァ、随分と粋な音、出しなさるじゃねェかい。
『すまないね、婆さん』
「おお、おお、こんな雨の中によう来なさった。ゆっくりしていくといい」
『いや、僕は団子を貰いに来ただけです』
「おお、おお、それはそれは……」
何だ、随分と腰が低い婆だ。いや、本当に腰の位置は人様より低いがねェ。
それより旦那ァ、こオんな怪しげェな甘味処で団子なんか腹に納めて、大丈夫ですかい?
『__何、心配無いさ』
おや、驚いた。
旦那、あっしの声が聞こえてるんですかい?
『嗚呼、さっきから、鬱陶しい程聞こえているよ』
……おお、これはこれは。優しげェなお顔から想像出来ねェ毒を吐きなさる。
『河豚の毒に当たって死にたくないのなら、喰らわないのが一番さ』
__と、云いますと?
『これ以上の毒を浴びたくないのなら、話し掛けるなと云っているのです』
ははあ……。いやはや。
これは一本取られた気でもしてきますかねェ。ねぇ?ねぇ旦那?
『……お前はよっぽど物好きなあやかしだなア』
有難うごぜェやす。
『誉めてはいないぞ』
何、あっしにとっちゃア誉め言葉の様なモンです。
「旅のお客さん、団子が出来ましたで」
『嗚呼、すまないね』
……おっと、旦那の目が怖いから、あっしは一旦へノ字口に。
『物分かりの良いあやかしだ』
有難うごぜェやす。