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たいじのゆめ

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そうだな。

私が一番怖かったと思う体験談でも話そうか。
かなり昔の話だから、私自身よく覚えていないのだけれど、私は「そこ」にいたんだよ。
暗かったような温かかったような、それからひどいノイズ音もしていたっけ…とにかく私は気がついたら「そこ」にいたんだよ。

声を出すことも、目を開くこともできなかった。ただ、わずかに体を動かして「そこ」の壁を押したり蹴ったりすることはできた。
不自由で退屈でそれなのに、なんともいえないような安心感はあった。
いや、ちょっとまってくれ。今思うとあれは安心感じゃなくって危機感だったかもしれない。
うん。そうだ、危機感だ。

まぁとにかく安心感だか危機感だかを感じながらも一応は「そこ」になれ始めた頃だ。
突然、私は「そこ」を窮屈に思えて仕方なくなってきたんだよ。
それと同時に物凄い焦りを覚えたような気がする。
焦った私は必死にばたついて、もがいた。
ひどいノイズは強くなるいっぽうでやむ気配を見せない。

私はゆっくりとしか動かない手でどうにか耳を塞いで、体をまるめて必死に耐えた。
その時にふと私は気づいたんだ。
私に枷がついていることに。
…それに気づいた瞬間私はどうしてだか自分が「そこ」に存在していることを恐ろしく思ったね。
あぁ。今となってはそれがなんで怖かったのかさえ覚えていないけれど、どうしてか今でも思い出すと体が震えるような気がするよ。

ノイズに耐え続けた私が次に体験したのは耳を劈くような破裂音と低いうなり声のようなものだった。
私がびっくりしている間に、「そこ」に何かが入り込んできて私を捕らえ「そこ」から引っ張り出した。
その最中には叫び声が小さく聞こえはじめ、だんだんと大きくなり最後には、私が「そこ」から出されたときは荒い息遣いと歓声が聞こえたんだ。

そうして私はこの世に生まれたわけだ。

これが私の体験した一番怖かった体験だよ。

ん?不満かい?
ならこう付け足してみるのはどうだろう?
私はね、たぶんこの世界に生まれてくることが怖かったんじゃないかな?
また、生きていかなくちゃならないからねぇ…とかってさ。
作品名:たいじのゆめ 作家名:時計等