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学園小話2

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当然 …2年後滝夜叉丸/代償の続き


「髪はどうした?」
「言いたくありません」
 新学期、短くなった髪は必ず話題になるとわかってはいたが、担任がわざわざ体育委員の顧問である厚着先生まで連れて問いただしてくるとは思わなかった。内心で溜息を吐きながら滝夜叉丸は応える。
「何があったんだ?髪はお前にとって大事なものだろう。忍者になるにしても武士になるにしても、今の長さでは……」
「ご心配には及びません。私の意志で切った髪です。それにいずれ伸びます。問題はありません」
 失礼いたしますと頭を下げ退散を決め込むが、待ちなさいと厚着先生が呼びとめる。
「その髪は、戦に使ったんじゃないか?」
 とぼけた顔をしていても、元々は戦忍。ピンと来るものがあるらしい。追及されてもかわす気ではいるが、こういう嘘はあまり得意ではないので少し困る。
「言いたくありませんし、家のことです。介入はご遠慮ください」
「我々は、生徒の心配をしているんだ!」
 まったく困った奴めとぼやかれる。
 成績は優秀でも、先生たちの間で自分は常に困った生徒だ。あと一年、自由でいられる時間のため、小さく頭を下げる。

「しかし、家のことと言ったが……平家は先日、手伝い戦に出ていたな?」
 先生たちの目が光る。ああいえば平気かと思ったが、一言多かった。しまったと思っても遅い。
「滝夜叉丸。忍術学園の校則は覚えているな? 生徒の実習外での戦忍活動は一切禁じると」
「もちろんです。私は学年一優秀な生徒ですから」
「だったら、髪を無くした理由も言えるよな」
「言えません」
 クナイで切り取られた髪はみっともなく不揃いだったけれど、昨晩、タカ丸に頼んで綺麗に整えてもらっている。ただ、高く結っていた髪の根元を切ったのだから、どうしてもその部分の髪は短い。頭巾で隠してはいるが、外せばすぐにばれるだろう。
「わかった。では頭巾を取れ」
 案の定、先生たちは見逃すはずもない。仕方ないと取れば、はっきり溜息を吐かれた。
「自分で切ったのか」
「先ほどもそう言いました」
 きっぱり言い切れば、先生二人は顔を見合わせる。いやな予感に、思わず身構える。

「三年は組のきり丸を知っているな?」
 ゆっくりと告げられるのは、死刑宣告に等しい名前。なぜその名がここに出てくるのかと問うのは馬鹿な話だ。
「…知っています」
 大体、考えるまでもない。きり丸は休暇中は土井先生の家で厄介になっている。戦場から追い返せば、帰るのはあの家だ。
 土井先生とて馬鹿ではないから、きり丸になにがあったことは簡単に察するだろう。きり丸もなにがあったか報告するかもしれない。顔は隠していたが、声と戦輪とで、対峙した忍が滝夜叉丸であることぐらい気がついただろう。あれは勘のいい子供だから。
「彼は休暇中に足軽のアルバイトをしていたと、土井先生から報告が上がっている。しかも、忍の集団と遭遇して、命からがら逃げ出したと。しばらくの罰掃除は確実だな」
 こちらの様子を伺うように、厚着先生は言葉を紡ぐ。
「……どうした滝夜叉丸。いつものお前なら、自分だったら余裕で逃げましたとか言うんじゃないのか? 能面みたいな顔をして、なにを考えている?」
「私にはさっぱりわかりません」
 それでもあちらに確証がない以上、知らぬ存ぜぬを突き通すしかない。平の手伝い戦ときり丸の件が、繋がっているという証拠はないのだから。

「戦忍が、作戦中に遭遇した敵の足軽の命を助けるなど聞いたことがない」
 またも溜息を吐かれる。
 確かにそうだろう。あのとき、きり丸は平の忍たちの任務の邪魔をした。いや、邪魔になる障害物となりえた。だから殺されるはずだった。
 それを止めたのは滝夜叉丸で、自ら彼の前に姿を見せた。彼が仲間に急を告げる笛を吹く素振りを見せたら、殺す手筈で。だから、きり丸の命が助かったのは、彼自身の行動にも寄る。
「その髪は、きり丸を助けた代償ではないのか?」
 実技担当はみな戦忍上がりだから、本当に困る。忍の掟を嫌というほど知っていて、その上、勘がいい。
「――私にはなんのことか、わかりません」
 それでも、否定を口にする。肯定は、決して出来ない。

 最初に平家の忍仕事を命じられたのは、四年生の夏休みだった。あのときは新学期に間に合わず、しかも理由もバレバレで、学園長先生の前で叱られた。平家にも家庭訪問に行ったらしいが、そちらは忍頭が対応したと後で聞いた。
 そのとき、二度はないと言われている。次に平家の忍仕事がバレれば、放校だ。
 あのときはまだ四年生で、まだまだ学ぶべきこともたくさんあった。でも今はもう六年。半年もすればこの学び舎を出て行くことが決まっている。それが早めになったところで、そう支障があるものでもない。もはや、誰も庇ってはくれないだろう。
「この馬鹿者っ!」
 激しい怒声に、近くの障子戸が揺れる。
「お前がなにをしているか、私たちが知らないとでも思っているのか」
「……仰る意味がわかりません」
 向けられる怒気は鋭く、 子供の頃ならば泣き出していたに違いない。ただ、もうそんな無邪気な時は過ぎ、荒ぶる感情を抑える術を覚えた。それを人は大人になったというのかもしれない。
 視線を反らすことなくもう一度否定の言葉を繰り返せば、盛大な溜息でもって返される。 
「一週間は謹慎だ。体育委員会活動も禁ずる。部屋に戻れ」
 もはや語る言葉はないし、口論してもボロが出るだけだろう。一礼して教室とは反対方向の、六年長屋へ足を向けた。


「駄目だ、金吾」
 大事な級友の名前の名前が出た瞬間、隠れていた柱から飛び出しそうになった。それを背後から抱き留めたのは、聞きなれた優しい声。
「…土井先生!」
「盗み聞きは駄目だぞ、金吾。それに今、お前が出て行って困るのは滝夜叉丸だ」
 自慢屋ながら、後輩思いの彼だ。嘘を突き通すのに、感情を揺すられる存在が傍にいるのはよろしくない。
「だけど…っ」
「いいから、大人しくしなさい。気づかれるぞ」
 廊下の角に隠れているとはいえ、大きな声を出せば気づかれる。向こうではいまだ会話が続いているのだ。
 怒鳴り声に身を縮ませながら、その度に優しい手が背を撫でる。もちろん、今まで叱られた経験がない忍たまなんていない。それでも、この気配は怖かった。
 ようやく廊下の向こうから人の気配が消え、緊張の解けた金吾はその場にへたり込む。
「大丈夫か?」
「……先生、先輩はどうなるんですかっ」
 心配してしゃがみこんだ土井先生の腕を、思わず掴む。滝夜叉丸は否定しかしなかったけれど、あれだけ先生たちが断定しているのだ。否定しかしないからこそ、真実なのだと子供だってわかる。
「大丈夫だ。私たちは生徒を守るよ」
 だから安心しなさいと何度も何度も背を撫でる手。いつの間にかそれは大きなものではなくなったけれど、いつでも安心と保護をくれる、大切な手。
 だから安心して頷けば、よし、と笑顔が返される。
「ここで聞いたことは、公言は禁止だ。わかっているな?」
「……きり丸にもですか?」
 念を押してくる声に、でもと返す。せめて友人には、先輩がしたことをわかってもらいたい。しかし、困ったような笑みを浮かべて土井先生は頷く。
作品名:学園小話2 作家名:架白ぐら