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学園小話2

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代償 …2年後きり丸と滝夜叉丸


 しまったと思ったときには、もう囲まれていた。
 四年生に進級すれば、いよいよ実習も本格的になってきて物入りが増える。だから比較的余裕のある三年のときに多めに稼いでおきたかった。だから、割のいい足軽バイトに参加したのが運のつき。
 危ないところは避ける自信があったのに、どうしてこんなことになったのか。今更悔やんでも仕方ない。
 自分に向けられた殺気は痛いほどで、うかつに動けない。周りにはほかの足軽はいない。そうだろう、ここは戦場から少しはなれた、争いに巻き込まれないようにと逃げてきた場所だ。
 戦が終る夕方まで時間を潰すつもりで鼻歌交じりに歩いていた、先ほどまでの気楽さはもうどこにもない。戦うにしても、配給された鎧は重いし、なまくら刀で何が出来るというのか。
 大体、姿を見せずにこうも殺気を向けてくる集団は忍以外ありえなくて、プロ忍に敵うなどと大それた自信も持ち合わせていない。

 ごくりとツバを飲む音がいやに響く。
 がさりと前方の草が揺れたかと思うと、小柄な忍が目の前に立っていた。
「……お、俺はただのアルバイトで、あんたたちの敵じゃないから…」
 こんな場所で死んだら、乱太郎たちはきっと泣く。土井先生に叱られる。土下座したっていい、ここで生き残れるなら何だってする。
 腰に指した刀を慌てて投げ捨てると、抵抗しないと両手を上げる。

 殺気は今だ消えることがない。目の前の小柄な忍がゆっくりと手を上げる。その手が翻ると、指先で掌より少し大きな円盤がきらり光る。
「戦輪…」
 幾度も幾度も聞かされるその武器の名前を呟く。それを合図にしたように、忍の手から放たれた輪は、青空の下で遠く弧を描く。
 咄嗟に伏せた頭上をひとつ、伏せた顔の横をひとつ、光の輪が通り過ぎる。ふつりと切れた兜の尾には、かすかに血が滲んでいた。

「今すぐ、装束を脱ぎ捨て立ち去れ」
 目の前の忍は掌に戻った戦輪を左右の指で回しながら、次はないと言わんばかりの態度で言う。
 その武器、その声には嫌な思い出が染み付いている。
 きっと前を睨みつけ、叫びそうになる。それを止めたのは、背後に降り立った忍の手にしたクナイの冷ややかな感触のせい。
 ぶつりぶつりと紐を切られ、あっという間に身包み剥がされる。
「行け。振り返れば、命はない」
 屈辱的な言葉に、唇を噛む。ぎゅっとつむった瞼の奥に浮ぶ大事な人たちの笑顔に、叫びたい気持ちを必死に押さえ込んで走り出す。
 殺気は、もう追いかけてこなかった。

「若といえど、例外はありません」
 きり丸が走り去った背を見つめる滝夜叉丸の傍に、クナイを手にしたままの年かさの忍頭が立つ。
 平家の忍たちがじっとこちらを見つめているのを感じながら、静かに目を閉じる。
 休暇中の滝夜叉丸が、平家の戦に加わることはこれが初めてではない。もとより、幼少の頃から忍頭に預けられて育ってきたのだ。戦の、忍の掟は嫌というほど知っている。
「手は困る。足は困る」
 ひとつの命を助けるならば、その代償を。たとえ平家の者といえど忍である以上、掟を守らなければ規律がなくなる。それは、誰にとっても、よいことなどひとつもない。
「目も耳も困る…いや、ひとつあれば十分だな」
「なれば、こちらをいただきましょう」
 男が告げると、ぶつりと重い音がする。後頭部に感じる鈍い衝撃と、軽さ。風に乗って、幾ばくかの黒髪が舞う。
「……これだけあれば、よい紐がつくれましょう。ときにあれは、忍たまですか」
「そうだ。いずれ、我らの味方になるか、敵になるかはわからぬが……」
 忍頭の手に握られた髪の束は、幼少より伸ばし続けた大事なもの。しかしその程度で済ませてくれたことに、軽くなった頭を下げる。
「味方になることを期待しましょう。我らが放った殺気に気づくあたり、なかなか見込みはある」
 傍の忍に髪を渡すと、忍頭は走り出す。それに遅れぬよう、滝夜叉丸も駆け出す。目指すは、この先にある本陣、大将首だった。



 褌姿で走っていれば、気の毒に思ったおばちゃんが小袖をくれた。
 見慣れないそれと頬にできた切り傷に、土井先生はすぐにピンと来たのだろう。また足軽バイトをしたなとこっぴどく叱ってきた。
「お前はそんなことで死にたいわけじゃないだろう!!」
 今まで見たこともない、本気の叱責。悔しかった心がしおしおとしぼんで、涙が溢れた。
 二度と足軽のバイトはしないと約束して向かえた新学期。今度あの顔と自慢話を聞いたら、正直我慢もせずに殴りかかるだろうななどと物騒に笑っていれば、乱太郎が怖いよと脇を突付いてくる。
 三年は組は相変わらずで、教室に飛び込んできた兵太夫が大ニュースだと叫ぶのも相変わらずだった。
「あの滝夜叉丸の髪がないんだ!!」
 開口一番の発言に、みんな揃って首を傾げる。
「……剥げたの?」
「違う。すごく短くなってるんだ。僧になるならともかく、ちょっとありえないよ〜」
 乱太郎の突っ込みに、笑って兵太夫は否定する。金吾が慌てて教室を飛び出すのを、みんなは呆れたように見送った。ずっと体育委員をしているせいで、金吾だけはあの先輩に甘い。
「売ったんじゃないか? あいつの髪だけは、褒められたもんだしな」
 休みの間の、あの嫌な出来事が思い出され、吐き捨てるように言ってやる。荒い口調に一瞬、教室の中がしんと静まるけれど、一拍置いてすぐに笑いが広がった。
「ありえるー!」
「今度、髪を売った理由聞いてみようぜ」
 一緒に笑っていれば、少しだけ溜飲が下がった。

 授業開始の鐘が鳴って、なぜか土井先生と一緒に戻ってきた金吾はひどく暗い顔をしていた。みんな話が聞きたくても、さすがに先生がそれを許すはずもない。じりじりとしながら休憩時間になるのを待って、一斉に金吾の周りをみんなで囲む。
「どうしたんだよ、何があったの?」
 こういうとき、代表で聞くのは庄左エ門か乱太郎の役目といつの間にか決まっていて、今回は乱太郎が心配げに声をかける。
「……先輩、謹慎だって。体育委員会もしばらく活動禁止」
「それ、よかったんじゃないの?」
 しんべヱが首を傾げ、みんなそうだと頷く。一年のときほどでないにしても、体育委員会はマラソンや塹壕掘りが日常茶飯事だ。は組でも、金吾以外なり手のない委員である。
「よくない。先輩は、休み中に戦場に出てて、そこで髪を落としたって…」
 俯いて首を振る金吾が、不意に顔を上げる。非難を含んだ視線が、はっきりときり丸に注がれる。
「僕たち忍たまは、一応、実習以外で戦場に出るのは禁止されているよね?」
 乱太郎まできり丸を見るが、こっちは足軽バイトを責める視線だ。
「ああ。忍として戦場に行ったり、任務を受けちゃ駄目だって校則だよな。あの鼻持ちならない奴にはいいお灸だろ。ざまあみろだよ」
 忍の部分に力を込めて言えば、うんうんとみんなが同意する。ただ金吾だけは、必至に何かを堪えるような顔で、目に涙まで浮かべている。
「……おい、金吾」
「きり丸の馬鹿! 先輩が髪と引き換えになにやったか、考えてみろよ!!」
 机を叩いて、もう語りたくないと金吾は教室を飛び出す。慌てて追いかける庄左エ門たちの声が、嫌に響く。
「……なにやったんだよ、きり丸」
作品名:学園小話2 作家名:架白ぐら