33粒のやまぶどう (短編物語集)
亮平君へ
私は君とよく似た境遇で育った。
それでも一所懸命生き、人生を全うすることができた。
私の生命保険金は、
世の無情で強くなった男から、強くなりつつある男への
リレーのバトンだと思ってくれ。
だから遠慮なく、受け取って欲しい。
義男
こんな文面を読み終えた亮平に、母はよほど伝えておきたかったのだろう、子への思いを絞り出す。
「父親というのはね、息子にはいつも無慈悲な人なのよ。だけど、ここ一番の時に、1回だけの大きな愛を与えるの。社長さんから聞いたわ、あなたたち独立し、共に歩んで行くんでしょ。だから今がその時よ。さあ、この義男さんのお金を使いなさい」
こんな話を耳にした亮平、涙がこぼれ落ちる。そしてあとは、ありきたりの言葉でしか返せなかった。
「お父さん、……、それと、お母さん、ありがとう」
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊