33粒のやまぶどう (短編物語集)
今、そんな減らないラーメンの、かっての真奈美のシーンが蘇り、二人の顔に柔らかい笑みが零れる。
しかし、当の本人の真奈美、そんなことは忘れてしまっているのだろうか、娘の愛沙をまた急かそうとする。
「早く食べな……」
一応、ここまでは発した。しかし、あとは口ごもる。
やっと真奈美は思い出したのだろうか、今度はいきなりぎゅっと愛沙を抱き締める。
「愛沙は私の娘だもんね。ラーメンが減らないのも……、仕方ないわ」
こう囁かれた愛沙、やっと笑顔となる。
そして、そんな微笑みの前には、店員が運んで来た時のままの量、すなわちふやけ切ったラーメンの鉢が、ただただ鎮座してるのだった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊