33粒のやまぶどう (短編物語集)
仕事の第一線から退いた高見沢一郎(たかみざわいちろう)、今は妻の夏子と穏やかに、いやそれなりに波瀾万丈に暮らしている。
そんなある日、長女の真奈美(まなみ)が可愛い孫娘、愛沙(あいさ)を連れて、還暦夫婦の陣中見舞いにと遊びに来てくれた。
「お父さん、お母さんに我がまま言ったらダメよ」
「おいおい、いきなり注意かよ、そんなの陣中見舞いにならないよ」
ちょっと不愉快な昼前だったが、「グランパ、ラーメンが食べたいの、連れてって」と愛沙がすり寄ってきてくれた。やっぱり頼りにしてくれているのは孫だけだ。
「えっ、愛沙、ラーメンて? お寿司の方が良いのに」
娘の真奈美から不満の声が飛んで来たが、「ヨッシャー、愛沙ちゃんが食べたいラーメンをご馳走しよう」と四人で近場の店へと出掛けた。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊