33粒のやまぶどう (短編物語集)
日曜日の午後6時、名古屋駅の新幹線プラットホームは人たちで溢れている。そんな中に、目に涙を浮かべた一人の女性が……。
年の頃は30歳前だろうか、若くて張りのある肌に、初夏をイメージさせるマーメイドブルーのワンピースを着こなしている。その洗練されたたたずまいに柔らかくカールされた髪が纏わり、いかにも都会的なセンスが窺(うかが)われる。
そんな女がおもむろに向かいのホームに目をやり、その焦点を右から左へと移していく。そして探し出したのか、腰の辺りで小さく手を振った。
その対象は背が高く、精悍そうな男だ。きっと恋人なのだろう。
いや正確に言えば、ほんの30分ほど前までは、だ。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊