33粒のやまぶどう (短編物語集)
春樹はもう不思議でたまらない。早速写真集を購入し、映画館へと走った。そして事務員に訊く。
「ああ、この写真の女の子ね、時々来てますよ。多分、辛いことでもあったのでしょうね、お母さんとの思い出に浸りに来るのですよ」
スタッフは淡々とこう答えた。だが春樹はそれだけでは納得できず、「どこから来て、どこへ帰るのですか?」と尋ねた。
「さあ、私もわかりません。お客さん、もうこれ以上は……、そっとしておいてやって欲しいのです」
春樹はなんとなく事情がわかってきたような気がする。それを見てとったのか、事務員が続ける。
「もう一つですが、絶対に少女の前に立ってやらないでください。顔を見られるのが、あの子、一番嫌がりますからね」
春樹はこれで理解できた。そして思わず口走ってしまう。
「えっ、それって――髑髏(しゃれこうべ)!」
これに事務員は人差し指を口にあて、囁くのだった。
「シーーー! 昭和映画館の……、ヒ・ミ・ツです」
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊