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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 それから幾星霜を重ねただろうか。初雪が降り、山が白く化粧した寒い朝のことだった。歳の頃は14、5歳だろう、少年と少女が必死の形相で寺へと駆け込んできた。
 山寺の僧・悦蔵は一言訊く、「母の名は?」と。
 これに少年は「母は紗菜と申します、3年前に殺されました」と涙を流した。

 これ以上二人が語らなくとも、山寺の僧・悦蔵はすべてが手に取るようにわかる。まるで昔の自分たちを見てるようだ。そして込み上げてくる愛おしい気持ちを抑え、かって聞いたことがある言葉で静かに伝える。
「わしは生滅流転という坊主じゃ。世の恨み辛みは絶えぬもの。それが運命だと思い、ここでしばらく精進せよ」

 しかし、悦蔵はそれだけの言葉だけでは終わることはできなかった。さらに言い添えるのだった。
「お前たちが、これからの生涯幸せに生きて行けるよう、今度こそ、このわしがその流転を変えてやろう。ここで学問に励め。お前たちの母、いや、愛しい妹、紗菜のためにも」