33粒のやまぶどう (短編物語集)
そっと開けたカーテンの間隙(すきま)、その向こうに少しくすんだ風景が見える。本当は白銀の世界なのだろう。
しかし、新月だった闇の中で雪はしんしんと降り、今も舞い落ちる六(りつ)花(か)の重なりなのか、グレーぽく目に映る。
凛太郎(りんたろう)は、そんな雪夜の名残(なごり)にふーと息を吹きかけ、ボソッと呟く。「雪だよ」と。
ベッドの中にいる麻伊(まい)からは、興味がないのだろう、「そうなの」と、おかしみのないレスポンスしかない。その代わりにと、麻伊は寝返りを一つ打ち、真っ赤な牡丹絵の掛け布団を顔まで引き上げた。いや、むしろ潜り込んだと言った方が当たっているのかも知れない。
つまり麻伊は、凛太郎からの雪景色への招待を無視して、ベッドの温もりの方にひとしお御執心のようだ。
こんな麻伊の振る舞いだが、凛太郎には不満はない。もちろん目くじらを立てるほどのことでもない。
「さぁーて、起きるか」
無論のこと、これは麻伊への当てつけではない。冷えた朝に、目覚めるための自分への単なる鼓舞だ。麻伊もそんなことはわかってる。そのためかベッドの中で微動だにせず、再び訪れてくるだろう心地よい眠りをただただじっと待っているようだ。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊