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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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「江原さん、モニターが異様な熱を感知しました」
 フライトは着陸し、入国手続きを終えた後、女性係員が声を掛けてきました。それに振り返りますと、他の乗客たちがウォーと声を上げながら後退りしてるじゃありませんか。

 その理由が何か、私は最初わからなかったのですが、ハッと気付きました。そして大声で申告してやりました。「私はエボラじゃない、エバラじゃ!」と。

 それからすべてを無視し、歩き始めると、女性係員が近付いてきて囁くのです。「焼き肉のタレさん、お待ちください」と。
「ナンジャイ!」
 私はそのエバラ違いに精一杯反発を試みたのですが、この言葉を発してしまったせいか、旅行アドバイザーが薦めてくれた珍名が次々と脳裏を過ぎって行くのです。それは南蛇井から始まり、オデンの森にヤリキレナイ川、そしてマルデアホにマダカシラと。

 こんな錯乱をする私に、ウン十年前に習った先生によく似たスタッフが声を張り上げました。
「女性係員をなめんじゃない、そこに――、タットケー!」

 これに私はシャキッと起立。まさに掟・タットケーを、旅行から戻り早速日本で実行させられた、名誉の第一号になったわけであります。

それじゃ、みな様にお裾分けで……、タットケー!