33粒のやまぶどう (短編物語集)
「アナタ、この古くさい時計、どこかへ売っぱらってきてちょうだい!」
リヴカは朝から機嫌が悪い。朝食のためテーブルについた夫のアブラハムに、懐中時計を差し出し、怒りだす。
アブラハムは妻がなぜこんなに不機嫌なのかわかってる。だから素直に、「ああ、そうするよ」と答えた。
そう、それは1ヶ月ほど前のことだった。泥棒市場で、アブラハムはこの金の輝きを持つ時計を見つけた。手にするといかにも精巧に作られていて、値打ちがありそうだ。いくらか値切り買い取った。その後、後生大事にそれを持ち歩いてきた。
そんな大切にしている時計、当然就寝時はベッドの横に置いておく。しかし、どうも寝付きが悪い。しかも横に寝ている妻までもが寝苦しそうだ。そしてその内に、二人とも悪夢を見るようになった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊