33粒のやまぶどう (短編物語集)
そんな日から1週間が経った。不思議なことに、穴は日々成長し、直径1メートルにもなった。
「こらっ、お前は生き物か?」
しばらく留守にしていた善行、その成長ぶりに驚き、穴の底に向かって思わず叫んでしまった。すると声はワーンと響き渡り、一拍置いて、「善行、そんな高い所にいず、ここへ下りて来なさい」と返ってきた。
善行は心臓が止まるかと思った。明らかに母の声だ。
性懲りもなく悪事を繰り返してきたこの男にとっても、母ともなればじっとしてるわけにはいかない。善行はそそくさと非常用ロープを穴に垂らし、「母さん、助けに行くから」と伝い下りて行った。しかし、底はどこまでも深い。やがて善行は力尽き、闇の中へと落ちて行ったのだった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊