33粒のやまぶどう (短編物語集)
「何かちょっと変だなあ」
大瀬太一郎はこんな独り言を吐きながら、単身赴任のアパートへと帰って来た。
初夏の熱が籠もった部屋。まずはヨタヨタと冷蔵庫へと歩み寄り、冷え切った缶ビールを取り出す。そして命蘇生のために、グビグビと。
とりあえずこれで一息入れて、あとはパソコンの前にドサリと座り込む。そして「おかしなことが……」と一人小首を傾げる。
それはオフィスでの出来事だった。
仕事上緊急案件が発生し、3階の会議室へと急ぎ向かうためエレベーターに乗り込んだ。しかしだ、3階のボタンを押そうとしたが……、ない!
そう、あるべきはずの――『3』のボタンが消えていたのだ。
「え、え、えっ! これって?」(汗、汗、汗)
太一郎は呻きながらエレベーターから降り、ゼーゼーと階段を駆け上がった。
作品名:33粒のやまぶどう (短編物語集) 作家名:鮎風 遊