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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 白綸子の打掛に白袴、背には赤子を背負って、亜伊は馬に跨がった。ただただエクレウス号を信じ、三晩の野宿をした。そして大きな川の前へと辿り着いた。辺りに目をやると、白花を散らす沙羅双樹がある。そして、たたずむ青年がいた。
 やっと見付けた。亜伊は花嫁衣装に赤子を背負ったまま潤の胸へと飛び込んで行った。潤もこの再会が余程嬉しいのだろう、亜伊を愛情込めてぎゅっと抱き締めた。

「さっ、潤、帰りましょう」
 亜伊から発せられたこの言葉に、潤の顔が曇る。
「亜伊、済まない。私はこの世で亜伊と一つの命を紡いだ。だからもう、私が住む冥府、向こう岸へと渡らなければならない」
「なんでなの? 折角迎えに来たのに、なんとかならないの?」
 亜伊はこの理不尽が理解できない。怒りさえ覚える。潤は愛する亜伊の心情が不憫となり、話してはならないことを漏らしてしまう。
「私の身代わりがあれば……」と。