ヤマト空想科学教室12 キムタク検事は税金泥棒
キムタク検事は税金泥棒
さて『ヤマト』とも空想科学ともなんの関係もないこの教室。今日はまたまた『HERO』だ。けれどもあれは、何年前の映画だっけ。見た人だってみんな忘れてるだろうから、改めてその内容を紹介しよう。
事件は夜の公園で起きた。被告人カトーサブローはクルマに乗って現場を去る。そのクルマがなんとなんと韓国へ! 検事キムタク、クルマを追って韓国へ飛ぶぞ。税金で焼肉だとかビビンパとか、食べて食べて食べまくっちゃうぞ!
という話であった。いいなあ、おれも検事になって、韓国料理食べたいなあ。だがマジメに仕事もしなきゃ、本当に税金泥棒になってしまう。
キムタクが事件を再検証すると、目撃者はカトーがクルマで現場から慌てて去るのも見てたのだった。警察に聞かれて、
「そのクルマは横に大きく《男魂》と文字が書いてありました。最初はあそこに止めてあり、そこをグルッと回ってあっちへ……」
などと応えているという。だがそのクルマは、今は韓国にあると判明。キムタクは車を探しに韓国へ行かなければと考える。
って、いや、そんなこと、必要ねえと思うがなあ。ねえキムタク検事よお。それで韓国出張するのは税金泥棒だよ。目撃者は《男魂》の文字を見ていたんだろ? 『2199』の加藤機に《誠》と書いてあるみたいに、横に大きく書いているのを見ているんだろ。なら、それだけで充分じゃん。
そもそも捜査の最初の段階で、絶対にこんなことがあったはずだとおれは思うんだけどもね。刑事が目撃者に向かって、
「その男はクルマに乗って逃げたのですか。クルマというとどんなクルマ?」
「は? 『どんな』って?」
「つまり、セダンとかワゴンとか。まずそこから教えていただかないとワタシどもはわかりませんので」
「あ、そうか。バンでした」
「バン。と言うと、ワンボックスと言うか、今あそこに止まってるあれみたいなやつですね(その人がバンとワゴンを混同してるなんてこともあるかもしれないので、プロならば念を入れて確かめましょう)。色は?」
「黒です」
「黒? 確かに黒ですか? 夜だから暗い色なら黒だと思ってしまうかも」
「そう言われるとちょっと……」
「いいですよ、〈黒もしくは暗色〉ですね。大きさはどうでしょうか。バンはバンでも軽のミニバンというやつから、荷台の広い大型までいろいろとあるでしょう。あそこにあるあれと比べてどうですか」
「うーん、同じくらいかな。もうちょい小さかったかも」
「なるほど。他にそのクルマで何か覚えてることはありませんか。バンと言っても前が真っ平らなのから、ボンネットが前に少し出ているのとか、車種によって違いますよね。そのクルマの特徴について、どんなささいなことでもいいから……」
「はあ。特徴と言えば、文字が書いてありましたけど」
「文字? 横に大きくですか? 《ナントカとうふ店》みたいな……」
「まあそうですけど、《男魂》って」
「は?」
おわかりだろうか。警察にとって、クルマだって捜査の重要な手がかりなのだから、刑事はその特徴を根掘り葉掘り問いただすに決まってるのだ。で、もし横に文字なんかが書いてあったら、
「そ、そ、それ、本当ですか! 《男魂》! 確かにそう書いてあったんですね!」となって、それから、「最重要情報だ! 特急で総員に伝えろ! ホシは《男魂》だ! 《男魂》を探せーっ!!」
となるに決まってんじゃねえか。あのカトーサブローは、「いたぞ! 《男魂》だ!」とマッポ十人に追いかけられて捕まったに違いないのさ。で、パクられたその時点で、
「目撃者は《男魂》の文字をはっきり見てるんだ! お前、これでシラを切る気か!」
言われたらもう、
「そうです〜オレがやりました〜」
と言うしかもうない、と。これでどうして推定無罪なんてことが言えるねん。無理! どんな弁護士がどう頑張ってもあのパツキンの無罪は無理! 《男魂》なんて書いたクルマに乗ってる時点で決まりですから、この裁判は楽勝です。キムタクさん、韓国には自分のお金でどうぞ楽しんで行ってらっしゃい。
作品名:ヤマト空想科学教室12 キムタク検事は税金泥棒 作家名:島田信之