走れ! 第八部
と、コーヒー牛乳の容器を近くのごみ箱に捨てながら、涼子さんが言う。ちょうど風呂場の出入り口の向かいには土産物売り場があった。弘前駅の土産物売り場と同じように、リンゴを使ったお菓子などが所狭しと並んでいた。それらを涼子さんは楽しそうに眺めて品定めしていた。ついでだから、おれもここで土産物を買い、品物は全て宅配便の着払いで自宅へ送った。手持ちの金がなかったということもあったけれど、ふと、オヤジとのケンカを思い出し、せめて宅配便の代金ぐらいは払わせてやろうと思ったからだよ。涼子さんも同じように買った土産物を宅配便で送ったので、おれ達の二人とも大荷物で家に戻ることなく、法子伯母さんに用意してもらった風呂の道具だけを持って家に戻ることになった。
さて、関の庄を出ようかというところで、涼子さんが何かを発見したようだ。
「御関所資料館……」
涼子さんは建物に掲げられていた看板の文字を小声で読んだ。そう言えば、秋田県との県境の辺りに関所が再現された公園のようなものがあった。どうやら、それがこの関の庄に移設されたらしいんだ。関の庄の入口にも立派な門があったけれど、それも県境の公園にあったものだという。
「これ、見て行こう!」
涼子さんが見て行きたいと言うおれも県境の近くにあった公園には何度か行ったことがあるけれど、それももう記憶になかった。うっすらと記憶にあるのは、関所の様子を説明するためのちょんまげの人形がたくさんおいてあったことぐらいだったよ。
建物の中に入ると、関所を忠実に再現した展示物があり、そこにちょんまげの人形があった。多分、うっすらと記憶にあるのは、これなんだと思う。ガキの頃に見たから面白くも何ともなかったけれど、あの年で見てみると、なかなか面白かった。だから、この年で見たら、もっと面白く感じるんだろうな。この資料館には、他に鎧や火縄銃なんかも展示されていたし、殿様が乗ったとされる籠も展示されていた。もちろん、関所に関する資料もあったな。そんなに広い施設でもなかったからすぐに見終わってしまった。日本史だけは得意だったという涼子さんは、満足そうだった。
家に戻ると、健太伯父さんと雪江伯母さんも来ていた。テーブルの上にはおれと涼子さんが釣って釣り堀で料理してもらったニジマスの塩焼きと唐揚げがどっさりと盛り付けられた皿があった。昼からまるでパーティのようだったよ。塩焼きも唐揚げも、釣ったばかりの魚を料理したとあって、なかなかうまかった。みんなで全て平らげてしまい、片づけを手伝った後は、もう腹がいっぱいで動く気もしなかった。自分の部屋に戻ってテレビに映っていたローカル局の番組を見るともなしに見ながらゴロゴロしていた。
窓から見える空を眺めて、ずっと涼子さんと二人で、碇ヶ関で過ごせたらいいな。そんなことをまた考えていたけど、そういうわけにもいかなかった。しばらく経ってから居間へ行くと、ちょうど涼子さんが来たところだった。