ルドルフの憂鬱
「では……このユニフォームは……」
「必要ありませんね」
「なんとっ!!」
あーぁ。そんなにガッカリしなくても……。
「これを着て、子供達に会うのが夢だったんだよ……」
分かるけど……。
でも、時間が……。
「ミスター。時間がありません。急いで着替えて下さい」
「着替え……?」
「はい」
頭の角で暖炉の前の赤い海パンをさす。
「こ、これかね!?」
「えぇ。ユニフォームの下に着用しておいて下さい」
まだここは北半球。その格好になるのは、南半球に入ってからでいい。
がっかりしながら着替え始めるミスター。そんなにへこまなくても大丈夫なのにな……。
「ねぇ、ミスター」
「……ん……?」
「南半球じゃ、そっちの方がユニフォームなんですよ」
「これが……かね?」
「えぇ」
それを穿いたサンタクロースが波に乗ってやって来る。それが、南半球のクリスマス。
「それじゃ……君は……」
「ボクは……ミスターが配り終えるまで雲に隠れてます」
「いやいやいや!」
ミスターが首を振る。
平気ですよ、ミスター。ボクは慣れっこだから。
「じゃ、こうしよう!」
ソリに乗ったミスターが身体を乗り出して、ボクの耳元で囁く。
「私が子供達の様子を君に伝えよう。いいかね。楽しい事は二人で分ければ倍にも二乗にもなるんだよ」
ビックリするボクにウインクひとつ。
「おおっと!」
そして、身を乗り出しすぎてソリから落ちる。
「あいたたた…」
クスッ…。
「これ! 人の不幸を笑うとは、何事かね」
言葉は怒っているのに、顔が笑ってますよ、ミスター。
「じゃ、出発しようか?」
「はい」
その前に、うっすら溜まってる涙を拭いて下さい。
「痛かったんだよ」
分かってますって。
「また笑っとるな」
いえいえ、とんでもない。
「では、気を取り直して……」
ミスターの合図で地面を蹴ると、みるみる地上が遠ざかる。
クリスマスの夜はこれからが本番。
「よろしく頼むよ。ルドルフ」
「はい、ミスター!」
――― ボクらは星の海に飛び立った。