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友達

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手足がバラバラになっている男がいた。
 「久しぶり」とそいつは言った。
 俺はなんか面を食らってしまって「なんでお前、手足がバラバラになってんだ」と聞いた。そうすると男は「いやお前、そりゃしょうがねえだろう。今までと同じようにはいかないんだよ」
 「そんなもんかね」
 「そんなもんだよ。それに、繋がってないってのは意外と楽ちんなもんだよ」
 「そんなもんかね」
 「そんなもんだよ」

 「お前はさ」
 「何だい」
 「急に、そうなっちゃったんか?」
 「まあね。なりたくてなった訳じゃない。俺もね、すっげー頑張ったつもりだったんだけどね。結果、何かこうなってしまった」
 「何か、か」
 「そう」
 「しょうがないもんか?」
 「そりゃそうだろう。俺がそれとも、何かしたか?」 
 「や、してないけどさ。何か、なっちゃったかーって感じだよ」 
 「まあ気にすんなよ」

 「お前はさ。何が見えてたんだ?」
 「何が?そんなん何も見えてないよ。ただ、ひたすら足と手を動かしてたんだ。石があるじゃないか。動かしたら、そこからは無くなるわけよ。んで俺の周りには埋め尽くさんがばかりに石が沢山つみあがってた。じゃあ、やるしかないだろ。」
 「だって、大変そうだったぜ」
 「ところが大変って簡単にも言えないんだな。石を動かすと、景色が見えるんだ。一つ一つ重い石もな。動かすと意味が表れてくる。それはいつも煌めいてて、俺を夢中にさせたよ。だから、やる価値はあったんだ。体はいつも悲鳴を上げてたし、意識を抜くと急に眠くなった。ずっと続いたよ」
 「俺の周りだって石が沢山あるけど、お前みたいに動かしても良くわからなかったよ」
 「その代りお前は空を飛べたじゃないか」
 「今は飛べないよ」
 「いや、飛べるね」

 「飛べるのかな」
 「飛べるさ。今は、色んな縄に縛られてるんだろう。それは見えるよ。お前が如何にその圧力に苦しんでるかってのもね。でも、そんなん縄さえなければすぐに浮かんでいくもんさ。俺はそんなお前にすごく憧れてたんだ。俺が石をひいこら運んでる間、お前はすいすいと空を飛んでたんだから」
 「俺はお前が土地を作り出していくのを見て、憧れていたよ」
 「ああ。それは俺の得意技だからな」
 「俺もお前みたいに土地を作れるかな」

 「それはどうかなあ。わからないよ。俺は出来てもお前は出来ないって事はあるだろう。お前が出来るのに俺が決して出来なかったように。でも、そうお前と俺は根本的には変わりは無いんだよ、本当は。それはわかるだろ?ただ、ベクトルが違っていただけなんだ。進むという事においては、突き抜けるという事に於いては、何かを得たいという事に於いては、俺とお前は、同じものなんだ」
 「同じもの」
 「その縄の解き方を教えてやろうか。まず、どういう風に結ばれてるかをよーく確認することだよ。結び目ってのは必ずあるもんだ。そうしたら、少しずつそれを解いていくんだ。端からだよ。端から、いきなりは解けないから、少しずつその解くべきベクトルに向かって、力を込めていくんだ。何日も何日も。何年かかかるかも知れない。でも、そうすればいつかはお前の縄は外れる。」
 その男は当然、という顔でそう言った。
 俺は我慢が出来なくなって叫び出した。
 「お前は、お前だって、この縄を構成している一部じゃないか。この縄は藁で出来てなんかいない。無数の人の手で出来ている。うじゃうじゃとした手が、俺を縛ってるんだ。その中にお前の手がある。お前の、そのバラバラになった手足の一部が。なあ。俺はこの縄を解かなければいけないんだろうか。この縄を外したら、お前の手はどこに行ってしまうんだろうか。」

 「でも、お前は飛べる人間だろう。飛ばなくていいのか?」
 「俺は、お前と一緒にいたかったんだ」
 「お前はいつか飛べるようになるよ。風を突っ切って飛び回れるだろう。その風が、俺だよ。だから大丈夫だ。今だけだ。見てみ、空はこんなに広くて清々しい。縛られてる場合なんかじゃないぞ」

 俺は大声を挙げて泣きじゃくった。
 許してくれ、と口から勝手に声が出た。許してくれ。

 コツーン、という音が辺りから響いた。
 コツーン、コツーン、と、3回鳴り響いた。俺は周りを見回した。そこは何も無い、開けた草原だった。
作品名:友達 作家名:草_