『 百億円ください 』
誰かこの会話を聞いている。
私はテレビから流れる音声に目を見開き、震撼した。
すべては盗聴から始まる不幸であり、誰も同情してくれない日々が始まった。
それは10年よりも前の話であり、気付くと家は包囲されていた。
誰もが笑顔で傍らを通り過ぎ、涙は笑い声に掻き消された。
口を開くとクルクルパーのジェスチャーをされ、タクシーの運転手はいやらしい笑いを浮かべて見ていた。
だが、誰がこいつのために法を建ててくれるというのだ。
誰が守ってくれるというのか。
葬り去られて行く地獄の中、私はすがりつく藁を探したが何も無かった。
盗聴されているという現実は妄想のレッテルを貼られ、家族は私を憎むようになった。
アイドルや政治家が盗聴することが日常茶飯事だからといって、一ファンである一般人に出来ることはない。
私は呪うことにした。誰も彼もが同じ目に遭い、そしてその時の私を笑った日々を後悔するように。
憎しみの中で私は生き、生きていることすら許されなかった。
真実に気付くことは、現実を生きる術を無くすことなのである。
死と背中合わせに私は生き、生きる希望も失っていった。
10年を掛けた戦いに終止符は無いが、私と家族の加齢と共に危険は薄れていく。
百億円ください。
私はテレビに向かって、呟いた。
あなたの10秒が、私から命を奪い去るところだったのです。
作品名:『 百億円ください 』 作家名:みゅーずりん仮名