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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第二十話

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 そして、朝日が昇り始め、日が変わったと実感する頃。
 オレは『フォーテイン』へと到着した。

 ざっと辺りを見回す。
 やはり、あの物見やぐらが怪しかった。
 どこか、違和感がある。

 あれだけ、このロケーションにマッチしていない気がする。
 オレは、物見やぐらに近付き、周りをぐるっと回ってみた。


 「……あった」

 するといとも容易くそれは見つかった。
 やぐらの円柱の後ろ側にある、引っ張って扉を開けるための取っ手に、
 オレの背丈の半分くらいの大きさの四角い切れ込みが、円柱に走っている。

 さっきここにいた時はもう夜だったので、さすがに気付かなかったみたいだ。
 
 オレはその取っ手をとりあえず引っ張ってみる。
 初めは何か抵抗があったが、それはすぐにパチンと音を立てて開いた。

 中には、下りの螺旋階段が続いている。
 この先には一体何があるというのだろう?
 
 まるで罠にかかった獲物を待っている蟻地獄のように、捩れた階段は底が見えない。
 でも、オレはすぐに頭を振ってそんな考えを打ち消した。
 
 ここまで来ればまず考えるより行動だ。
 少なくとも、目の前に道が示されている以上は立ち止まっていられなかった。

 オレは一つ頷くと、それでも辺りに気を配りながら階段を下っていって……。


 「こりゃ、凄いな」

 着いたところは、オレには全く見当もつかない、いろいろな機械に囲まれた基地のようなスペースだった。

 三輪ランドの心臓部分、そう言われてもおかしくないだろう場所だ。
 まず目に入ったのは、中央が少し高くなっている、小さな円形のステージみたいなものだった。


 「っ!」

 とりあえず調べてみようとそれに近付いた時だ。
 まるでそれを感知したかのように機械の駆動音がして、機械が動き出し、中央のステージを緑色のライトが照らしだす。

 すると、どういった仕組みなのか、そこに突然誰かが現れた。


 「あなたは。『プリヴェーニア』で会った……」

 それは、ここに来て最初に出会った人物。
 従業員の服を着た老人だった。
 オレの呟きに答えるように、ゆっくりと目を開き、こちらを見る。
 その色は、意思の宿った朱の混じる黒色だった。


 「やはり来たか。永輪の少年よ。待っていたぞ。私は、三輪博士(みわ・ひろし)。この三輪ランドの創作者にして、運命を共にするものだ」

 その言葉を聞き、オレの思考は一瞬停止する。
 この人がここを作った人、だって?


 それを聞いた瞬間、オレの中で様々な感情の波が押し寄せ、そして砕けた。

 
 「あ、あんたがっ!」

 言いたいことはたくさんあって、でも言葉の代わりに出てきたのはやるせない怒りだった。
 オレは感情のままに三輪さんのほうへ向かっていった。
 突進といっても大げさじゃなかった。

 
 「……」

 三輪さんは、そんなオレを、ただ表情を変えずに見届けている。
 オレの怒りが、まるで意味のないことだと言っているような気がして、怒りの衝動が止められそうもなかった。


 「うわっ?」

 しかし。
 オレは三輪さんの体を掴むことはできず、すり抜けて反対側に無様に転んでしまう。
 それでも顔を上げ、睨み続けるオレに。
 少し躊躇う仕草をして見せた後、三輪さんは言った。

 「気持ちは分かるが、これは立体映像。私の肉体はもうどこにもない。この三輪ランドに、喰らわれてしまったからな」

 三輪さんの言葉は淡々としていたが、その中には悲しみが確かに混じっていて。


 「だあっ、もうっ! だっせぇなっ」

 らしくない行動をしてしまった自分に反省して、オレは立ち上がって再び三輪さんと向き直った。
 こういう時こそ冷静でなきゃいけないってのに。

 「す、すみません。気が動転してて。でもっ、ここは一体何なんですか? あんな怪物が出て……友達も」

 オレは俯くように、言葉を発する。
 気を抜けば怒りと悲しみがあふれ出てしまいそうだったからだ。

 
 「……すまない。全て私の責任だ。本来ならば全ての罰を、この身体で負うべきなのだが、それも叶わぬこと。ただ、何故この三輪ランドがこんなことになってしまったかの説明はできる」

 オレは三輪さんの言葉を聞いて顔を上げた。

 「お願いします、それを聞かせてください! このままなんて絶対駄目だからっ」
 「……ああ」

 思わず出たオレの言葉に、三輪さんはしっかり頷いてくれて……。


 「私は、ある研究に人生の全てを捧げていた。それは、細胞のように分裂、増殖し、環境の変化にも対応できる『生ける建造物』の研究だった」

 放たれた言葉は、最初から突拍子もなかった。
 でも、ここで起きたことを考えれば、驚きはもうほとんどなかった。
 もちろん、疑うことも。


 「生きている、という条件を満たすため、それを創りあげるには、莫大なエネルギーが必要だった。そのエネルギーを求めて試行錯誤の中、私が目をつけたのは黒陽石だった。長年、地中深くで眠り続けた黒陽石には、魔を引きつけ、その力を宿らせるという。その力なら、そのエネルギーを十分に補えるだろうと考えたのだ」

 確かに、オレも似たようなことを考えていたのを思い出す。
 そしてそれは、オレの視覚情報や記憶が、全てを証明していた。

 「結果で言うと、研究は成功だった。しかし、それはなかなか世間では受け入れられなかった。だから私は、それを分かりやすい形で証明するために、この三輪ランドを創っただ。……私の研究を手伝ってくれた者たちや、孫の手助けもあって、この三輪ランドは、新しい世代のテーマパークとして、経営も順調……全てがうまくいっていた」

 その時、ホログラフであるはずの三輪さんの表情に、一瞬だけ優しさがにじみ出たような気がしたが、それを追求する暇もなく、話は続く。

 「しかし。あの黒陽石の仮面……大昔からこの地に眠り、存在したといわれるあの仮面は、私が思っているほど生易しいものではなかった。手に入れたときは、運が良かったと思ったが、ひょっとしたらそれすらも、あれの意思だったのかもしれない」


 三輪さんの声色に、苦渋が混じる。
 オレ自身も、あの仮面のことを思い出し、行き場のない悔しさに唇を噛んだ。

 あの仮面、黒陽石さえなければ!
 口には出さないが、三輪さんにもそれは十分伝わっただろう。
 三輪さんは、思いのたけを吐き出すように、言葉をやめない。

 
 「あれは、まず手始めに『生ける建造物』を我が物にし、操った。そして、それを暴走させ、ここにやってきた人間の生命を、自身の依存性を使って貪りだしたのだ。それによって生まれたのが、あの伝説の怪物、『雨の魔物』だ。何故あんなものが生まれたのかは分からない。ひょっとしたら、人の心の奥底にこそ、魔は潜んでいたのかも知れないが……。それからというもの、ここは雨の魔物が跋扈する恐ろしいダンジョンになってしまったのだ」


 三輪さんはそこで言葉を切って、一息置いた。
 溜息すらも昏い場の雰囲気が、オレの心をじくじくと侵食していく。

 オレは耐えられるだろうか。