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天国からの脱出

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天国



明菜と二人で怠惰な生活を始めたというか、そうせざるを得なかったのだが、太らなければ出られたのだから飲み過ぎと食べ過ぎが原因であろう。

この天国のような環境の良さも見逃せない。夏に別荘風の住まいに侵入し、出られなくなったのが初秋の頃だった。二人とも一人暮らしだったので、最初はずる休みと思われていただろうが、アパートの家賃が滞納し、もう失踪人の届けが出されているかもしれない。

だって出られないんだもん、という言い訳が心にあった。食糧はふんだんにあるとはいえ、いずれ尽きる筈である。そうすれば必然的に痩せてあの丸太の柱と柱の間から出られるだろう。何という怠惰、身体を使わない怠惰が心まで影響しているのだろうか。

もう二人とも別の部屋で寝起きしており、食事も勝手に自分ひとりで食べている。これが無人島で二人だけだったら、二人で役割分担をしたり、あるいは共同で作業をして絆も深まったかもしれない。たまに明菜がソファーで居眠りをしているのを見ることがあった。テレビが点いているのはいつものことである。もう経済的な理由でそれを消すということもなくなっている。

ぶくぶくと太って、顔もたるみの出た明菜の寝姿があまりに醜く感じてオレはすぐに目をそらしたのだった。オレは洗面所で自分の顔を見ることも無くなっている。明菜の顔を見れば自分もそれに近い容貌であることは想像がつく。

          *          *

朗報だろうか悲報だろうか。貯まったゴミを捨てに玄関を出た時に、なんと新しい食糧が狭い丸太の柱の間から配達されていたのを発見したのだ。明菜はテレビの音のせいで気付かなかったのだろう。そしてオレはゲームに夢中になっていて気付かなかったのだと思った。

ビールやワインなどのお酒もあるようだ。箱も柱の間を通る厚みで、いくつにも分れていた。おそらく、多分2ヶ月に1度とかいう契約が交わされていて何もいわなくても配達されるのだと思った。梱包の指定から、受領の確認不要の条件まで指定して代金はここの主だった者の銀行からの自動引き落としか。

オレは明菜を呼んで、この食糧を冷蔵庫や地下倉庫に運び込もうと思った。大声で呼んだのに明菜は来なかった。またテレビを点けたまま居眠りしているのかもしれない。少し痩せるかもしれないという淡い思いで、オレはせっせと食糧食料を運び込んだ。身体が喜んでいるような気がした。最近頭の上が黒く重い空気にさらされ続けているような感覚があったが、少しそれが薄れたようにも感じた。

明菜はテレビのある部屋で寝起きしている。オレはパソコンとベッドのある部屋と、自然に定着してしまっていた。その自分の部屋でハムやチーズ、冷凍のピザを解凍してオーブンで焼き直したものを並べ、ワインを飲んだ。運動をした今日の夕食は特に美味しいと思った。気分のよさに、もうこのままでいいやと思った。頭の中でもうひとりのオレが本当にこのままでいいのかといっているがゲームをし始めると(このままではいけない)の奴はどこかに行ってしまった。

作品名:天国からの脱出 作家名:伊達梁川