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高度成長経済に支えられて世の中はバブル時代に入ろうとしていた。
しかしこんな時代でも貧しい人は貧しさから抜け出せずにいた。父親を突然の病で亡くした川井家は妻であり5人の子供の母親である聡子が面倒を見なくては
ならなくなってしまった。

長女の夕美（ゆうみ）はこのとき小学校の六年生、下に弟が三人と妹が一人いた。末子の晴樹（はるき）はまだ１歳を過ぎたばかりの手が掛かる年齢だった。
毎日学校から帰ると夕美は晴樹をおんぶして家族の晩ご飯の支度をしなければならないようになっていた。

母親は朝早くから弁当屋とスーパーのパートをこなし、週に数回深夜の清掃のバイトもやっていた。
五人の子供の教育費や食費、マンションの家賃などを一人で稼がないとやっていけなかったからだ。親兄弟に頼ることは出来なかった。
それは兄と同居している嫁に対しての遠慮もあったからだ。

決して収入が良かったわけではない兄に対して両親は同居費用として自分達の収入から応援していたことが最大の理由だった。
娘が苦しんでいることは十分承知していたが、嫁の発言でお金の支援をしてやることが出来なくなっていた。