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飲み会

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私は飲み会のノリがどうも苦手だ。根本的にはバリバリの人見知りなので、隣の人とは普通に話せるけれど、真正面の人とは全く話したことがなくて、その隣の人とは挨拶程度の会話なら出来る。そんなややこしい状況も苦手である。頼みたいものがあってもどうしても遠慮が前に出て行ってしまうし、気付いたら目の前の料理をただひたすらむさぼり食う人になっていて、少し虚しくなる。
一気飲みのコールをし、ギャーギャーと騒ぐ人達を見ても、気持ちはどんどん冷めていくばかりだ。最初は飛ばしていた人も次第に顔色を変え、トイレを行き来するようになる。そのうち、自力では動けず誰かに介抱してもらう者が現れる。そうなると、もう心の中は氷河期のように凍り付いてしまう。
よく、吐くまで飲むなどといった無茶な行為をする人がいるが、私にはその神経が理解出来ない。よく考えて欲しい。楽しい飲み会の席を離れて、トイレまで連れて行ってくれる人のことを。見たくもない赤の他人の吐瀉物を処理する人の気持ちを。そういう奴に限って、お礼の「お」の字もないのだ。事が過ぎれば本人は、二次会のカラオケでガーガー寝るだけである。「気持ち悪い、眠い」とダダをこねて、道端で立ち往生し、みんなを困らせたことも一生知らないままだ。
なんて遊び心の無い考えなのだろう。それはわかっている。私が硬派過ぎるのかもしれない。その場だけワーッと盛り上がって、バーッと吐いて、アー楽しかった。それでいいのだろう、きっと。大学生なんてそんなものだろう。
もしかしたら、飲み会は酔いつぶれた人を介抱することありきで出来ているのかもしれない。しかし、その負担が大きすぎると思う。吐くまで飲みたいなら、自分の家で一人の時にやってくれというのが本音である。
とある飲み会で、先輩にこう言われた。「~ちゃんってこういう場所苦手だよね」その発言があまりにも的を得ていたため、少しイラッとしてしまった。
私は毎回、飲み会では己のコミュニケーション能力の低さと、個性の無さに脱帽させられる。馬鹿なことをして場を盛り上げる者、それに乗っかって馬鹿なことをする者。それにツッコミを入れ、さらに馬鹿なことをする者。それぞれの個性はこれ以上無いほど、光輝いている。みんな、「自分」をエンジョイしている。騒がしい店内で、ふと我に返るとそんな情熱さえもない自分がいることに気付く。なんだろう、このやり場のない気持ち。楽しいはずなのに、とても悲しい。
イッキ組から離れ、壮絶暴露大会を跨いで、下ネタ下衆男子集団をくぐり抜けると、たいていの飲み会は、同じようなテンションでにこやかに楽しむ人達のグループへと辿り着く。一番の安全パイだ。私にはこれくらいがあっているのだ。彼らも同じような目をして隣のテーブルを見ている。せっかく、たくさんの人がいるのに、話したことのある人とばかり話してしまう。確実に損をしている。
私にとって、飲み会やその後の二次会は、夢の世界の出来事のようだ。その雰囲気に流され、響く笑い声に何となく「楽しいのかもしれない」と思わされる。しかし、みんなと別れた後は、まるでシンデレラの魔法が解けたみたいに、何も残らない。みるみるうちに現実に帰るだけだ。それでも、夢を見られるから誘われると行ってしまう。全てを忘れていられる貴重な時間だ。汚い服も、意地悪なお姉さんも、自分の本当の姿さえも見ないふりをしていられる。
 私は飲み会のノリが苦手だ。
作品名:飲み会 作家名:榊原結衣