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会いたい人

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彼はいつも楽しそうに仕事をしていた。きっと、本人は楽しくもなんともないのだろうと思うが、どんなに忙しいときでも明るく笑い飛ばしているような人だった。その人は1年ほど前に、バイトを辞めてしまった。辞めてしまったと言うより、不運なトラブルに巻き込まれ、辞めざるを得なくなったと言った方が正確だ。本当に悲しい。個性が強く、色んな意味で目立つ存在だったため、店長は彼のことを嫌っていたが、私はむしろ大好きだった。恋愛的な意味では無く、人として尊敬出来た。まぁ、遅刻をするなど、少々社会的にだらしがない部分があったことは、否めないが。私にはない部分をたくさん持っている人だった。言うなれば、類は友を呼ぶという仕組みでは、絶対に関われそうもないような人だ。
 第一印象は、「なんかチャライし、軽そうだし、やたら頭とか触ってくるし、変な人だな」という感じだった。しかし、そのチャラさにも軽さにも、全く嫌みが無かった。嫌みというか、いやらしさというか。それに誰に対しても態度が変わらなかった。パートのおばさんにも、バイトにも挙げ句の果てには部長にも、馴れ馴れしかった。ここまで来ると見ていて清々しい。媚びることも、偉ぶることもない。ただ、人と関わることを楽しんでいる。非常に羨ましい。肩を叩き、腕に触れ、くだらないことをペラペラと喋り続ける。それが彼の「普通」だ。
 私は彼の事を、「コミュニケーション能力の塊」と呼んでいた。人に恐れを抱いたり、警戒することが無いのだろう。本当に尊敬する。
 彼がいると、職場の雰囲気が全然違った。忙しさに疲れ、何となく空気がギスギスドロドロしている時も、それがふわっと和らいだ。その頃はまだ下っ端の仕事しか出来なかった私は、彼の言葉に何度も救われた。
 もしも、現在の職場に彼がいたら、状況は全く変わっているのだろうと思う。後輩や先輩の距離がもっと近づいているに違いない。もっとみんなが同じ方向を向いて、まとまっているに違いない。確かに強烈な個性の持ち主だったが、だからこそ失った時の喪失感は大きい。
 時々、どうしようもないほど会いたくなる瞬間があるが、今となってはそれは叶わない気がする。連絡先も知らない。ツイッターで見かけたが、唐突にフォローするほどの度胸もない。「ありがとう」と伝えたいが伝えられない。
 もう一度会えたら、話せたらな。今どこで何をしているのだろうか。貴方にとても会いたい。どうか元気でいてほしい。ありがとう。
作品名:会いたい人 作家名:榊原結衣