ニタと仲間達
夕
「うわぁ、ニタ、ふっかふかだぁ。」
天使な子娘アルティメットはニタを膝の上に座らせて、幸せそうにニタを抱きかかえる。
「まぁね。『ぬいぐるみ、ふっかふか、じっくり』のおかげかな。」
つい先ほどの昼下がりに起こった出来事を思い出しながらも、顔をひきつらせながら、気丈に一生懸命得意げに語るニタ。
「ははは、ニタ、またアリスに洗濯されたのかよ。だっせーな。」
そばにいたディレィッシュが横から口を挟んできた。金髪碧眼のこの男はニタの揚げ足を取ることが出来て嬉しそうだ。彼も朝にニタから受けた仕打ちを忘れてはいない。
「いやぁ、俺の洗濯機はさぞかし最高だったろう。はっはっは。」
声高らかに笑うディレィッシュ。彼は何度かニタに失言をして、痛い目に遭ってきているが、どうやら恐れを知らない強靭な心を持ち合わせている。
ニタはじろりとディレィッシュを睨み付けながら「黙れ、この変態が」と悪態を吐くが、その愛くるしい姿からでは睨んだところで何の効果もない。
それでもディレィッシュは懲りずに続ける。
「俺の洗濯機はぬいぐるみだけでなくペポ族も綺麗にすることが出来るんだな。やっぱり俺って天才だなぁ。」
ディレィッシュは爽やかな笑みを浮かべ、誰かに向けるというわけでもなく親指をグッと突き立てた。
ニタはため息を吐いて、「一人で行ってろよ…、糞変態・・・」と呟いた。が、その呟きは耳ざとくもディレィッシュに聞こえていたらしく、ディレィッシュは横目でニタを見た後何ともなしに
「あ、アリスだ。」
と、呟いた。その途端、ニタの体が固まった。
「ニタ、毛、逆立ってるよ。」
と、アルティメットがニタをふかふかさせながら言った。ニタはディレィッシュがにんまりと意地の悪い笑みを浮かべてこちらに視線を遣るのを感じた。なんだかとっても腹が立つ。
「ニタ?あっはっは!嘘だよ!今、信じちゃった?」
モコ。
ディレィッシュが話し出すや否や、ニタの拳がディレィッシュの頬に勢いよく埋まる。
「変態、うるさい!」
「な、なにをするんだ、ニタちゃん!暴力はんた・・・!」
ボコ。
反対側の頬にもニタの拳が勢いよく埋まる。
「ちゃんづけすんな、変態!キモイ!」
「ディッシュ可愛い。ほっぺに肉球跡ついてるよ。」
ディレィッシュの両頬に赤く残るニタの肉球跡にアルティメットは喜ぶが、当のディレィッシュはやりきれない想いと痛さで密かに目を赤く潤ませていた。
と、そこへ銀髪紅目の美青年のビカレスクがやってきた。
「なぁ、トランプやらね?」
「やるやる~。」二つ返事のニタとアルティメット。
「ディレィッシュは?・・・ってお前、」
ディレィッシュの顔を見るなりビカレスクは吹き出した。
「だっせー!あひゃひゃ!」
涙を流してしまうほどビカレスクは大爆笑したので、ディレィッシュはしゅんと落ち込んだ。
しかし、彼は零れ落ちそうな涙を拭って立ち上がった。そしてニタに宣戦布告。
「ちくしょうニタ!お前には絶対負けないからな!」
と、いうわけで4人はトランプの中でも特にメジャーな『ババ抜き』を開始することに決めた。
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10分後。
「よしっ。残り1枚。」
ディレィッシュのカードを引いてハートのペアを捨てるアルティメット。ディレィッシュとニタが大量のカードを保持する中、アルティメットはもうわずかで上がりだった。ビカレスクは既に上がって戦線を離脱しており、涼しげな顔で戦いの様子を眺めている。
「ぎにゃああっ!」
ニタのカードを引いて悲鳴をあげるディレィッシュ。
どうやらジョーカーを引いてしまったようだ。
「やったー!終わった!」
ニタがアルティメットのカードを引いて、手持ちがなくなったアルティメットは2抜けとなった。1抜けのビカレスクとハイタッチをして喜びを表現する。
「ぐ、ぬぬ。結局こうなるのか。」
「ま、ニタは変態なんかに負けないけどね~。」
「何を~。ちくしょう、ここだ!チェストー!」
気合を入れてニタのカードを引くなり、カードを捨てられることにはしゃぐディレィッシュ。
その後は順調に進んで行き、二人の手元にあった大量のカードはあっという間になくなっていった。
「どっちが勝つと思う?」
「ニタじゃない?」
「やっぱり?私もそう思った。」
余裕のビカレスクとアルティメットは二人より添って勝敗予想をする。
「どっちか俺を応援してくれたっていいじゃないか!つーか、そこ、あんまくっつくな!」
ビカレスクとアルティメットにやきもきしながら、ディレィッシュはニタからカードを引く。現在ニタが2枚でディレィッシュが3枚(ババ有)。ニタから引いたカードで、カードが揃ったのでディレィッシュは相変わらずオーバーリアクションで喜んだ。
ニタはむすっとしながらディレィッシュのカードを引く。いい加減この変態に付き合うのも飽きてきたところ。これで終わりになればいいなぁ、と思ったが、その瞬間ディレィッシュはニヤリと笑った。
ニタが引いたカードはジョーカーだった。
「あーはっは。にた、これでお前も終わりだな。ジョーの野郎はこの俺の強運に恐れて二度と戻って来るまい。はっはっは。」
声高らかに笑うディレィッシュ。
そんな様子を外野から伺う二人は
「でも無理無理」
「多分また戻って来るよ。ジョーの野郎は。」
「だよな。ジョーの野郎は今までずっと変態のところにいたもんな。きっと慣れたところの方が落ち着くだろうよ。」
と、高見の見物をしつつ、ディレィッシュを野次る。
「だーかーらー。ジョーの野郎はもう戻って来ねーんだよ!」
野次―ズに弄られ、ディレィッシュは若干イライラしながらニタのカードを引いた。そのカードに表れしは『ジョーの野郎』だった。
ディレィッシュは彼との再会に、ムンクの『叫び』のようになって倒れた。
「ディレィッシュ君、君は愛されているね。さ、カードを引かせて頂戴。」
「ニタめ…。ジョーよ、俺を愛しているならニタのところへ行ってくれ!」
ニタはディレィッシュのカードを引いた。が、ディレイッシュがそのカードを引かせてくれない。
「なんなの?離してくれない?」
「隣にしろよ。」
「ババでしょ。」
「違う。スペードだ。」
「ニタのところにあるのはダイヤなんですけど。」
「んじゃぁ、ダイヤだ。」
「でも、ニタはこっち取りたいんですけど。」
「だめだ。」
「セコい・・・!」
「上等だ。」
「セコい手使ってでも勝ちたいの?」
「んじゃぁ、天に決めてもらうよ。」
ディレィッシュはカードを床に伏せてシャッフルした。
最早どっちがジョーカーなのか、ディレィッシュにさえ分からなくなった。
ニタは呆れながらもカードを引く。
そのカードに描かれていたのは…
『ダイヤの6』
「やったぁ!あっがりー!」
ニタはダイヤのペアを宙に放ち、飛び跳ねて喜んだ。歓喜のあまり外野の二人と輪になって踊った。
その傍らには、真っ白に燃え尽きたディレィッシュがいた。