天翔ける想いは翼に乗って 8
僕は即答した。
何を考えているんだこの人は。演説の時から残念な人だとは思っていたが、どうやら本当に残念な人らしい。
ふと、横から嫌な視線を感じた。
「こんなケツの青いガキは足手まといになるだけですよ。俺一人で十分です」
おっさんはニタリと汚く笑った。
「ぜひ僕にやらせてください」
僕は即答した。
(どうしてこうなった)
僕は自分のアホさ加減に嫌気がさした。
冷静に考えれば明らかに断るべき内容だ。いくらパイロット免許を持っているからといって、所詮は一般人。そんな一般人を戦闘機に乗せ、挙句の果てにはアメリカ軍の戦闘機を打ち落とす? アホだ、アホ過ぎる。世界中のアホが集まって世界アホサミットを開いたとしてもこんな常軌を逸したアホ作戦は思いつかないと僕は確信している。
<どうした坊主! 初めての戦闘機が怖くてちびっちまっているのか?>
そして、もう一人のあほなおっさんが無線で話しかけてきた。この人が今回のバディである時点で、もう僕は今すぐ緊急脱出ボタンを押して戦線離脱したいのだが、無駄に高いプライドと、ここで戦闘機を放棄したら、おそらく宝くじ一等を5回位当てないと返せないであろう莫大な賠償金を要求するよ! と、あのアホ少佐に言われていたため、かろうじてボタンを押さずにいた。あいにく僕は宝くじの一等を5回も当てるほど強運でもない。だったらそもそも戦闘機に乗らなければよかったのではないかといわれそうだが、ごもっともである。でもそんな考え、もう後の祭りだ。もう僕はもう空の上にいる。
<この作戦で俺はひと旗あげてやるんだ。解っているか坊主、俺の足を引っ張るなよ?>
おっさんがテンション高めにかっこいい事を言おうとしている。残念、そういう台詞は世間一般的には“死亡フラグ”っていうんだよ。
目標地点到達まで、あと30秒。さて、僕もそろそろ腹を決めないといけない。
適当にアメリカ軍の戦闘機と戦ったかの“よう”に動いて、適当に愛知県の上空を飛びまわり、ちょっとダメージを負って、そして帰還。
“苦しい戦闘の末、まことに残念ながら取り逃がしてしまいました!”
これだ。これしかない。そうこう考えているうちに、敵機がレーダーに映った。
<よっしゃー!>
おっさんが急激にブーストをかけて飛んで行った。
僕の計画は開始5秒と立たずに瓦解した。お、おっさんのアホ――!!
作品名:天翔ける想いは翼に乗って 8 作家名:伊織千景