森の言い分。
そんなに標高も高くないのに、雪が積もっていた。
行き止まりの柵があったので、頂上までは行けなかった。
今までリップがいた間は、何処かに行くと私はリップと二人でその場で遊びを見つけては楽しんでいた。
でも今はいないので、一人で遊ぶ。
旦那さんと遊んだら…と思われるだろう…、旦那さんはカメラが趣味なので邪魔できない…。
なので一人で遊ぶことになる。
そして私は雪球を作って崖の方に投げ始めた。
思いっ切り投げるとスカッとする。
ついでに、思いの丈も込めて投げ始めた。
『リップがいないから~!!』
『一人で遊ばなきゃいけない~!!』
『どうしてこうなった~!!』
なんて言葉を繰り返し繰り返し叫びながら投げた。
もちろん人がいないのを確認した上で…。
旦那さんがどんどん進むので、チラチラ見ては止まって雪球を作り投げてを繰り返していた。
ちょっとずつ雪の山道を登って行った。
いつの間にか寒さはなくなって温くなっていた。
旦那さんが写真撮りに納得したようで、下りることになった。
また雪の山道だ。
白一色…とまではいかないが、街の中では見られない景色だ…美しい…。
その中、私は変わらず雪球を投げては思いの丈をぶつけていた。
そして、登っている時には気付かなかった看板があった。
“山火事注意!”…と。
私は旦那さんに、
『こんなこと注意するもんなの?!』
と聞いたら、旦那さんじゃなく後ろからたくさんの声が聞こえた。
振り向いたら、数えられないほどの森の木々たちが、
『誰も掃除してくれないから…。』
と足元の落ち葉のことを言ったようだ。
あぁ~、なるほど~。そういうことか~。と肯いた。
『火が付いたら、すぐよすぐ。』
『一気に燃えてしまうよ、私たち…。』
とたくさんの声がまた聞こえた。
あらまぁ~…どうしたもんか…と思いながら、声の数が多過ぎて何本あるのかと数えてたら、
『数えなくていいよ。』
と言われた。
私はどうもと会釈した。
お気遣いのようだ…、優しい~。
もちろん私も数えきれるはずもない…と思った上でのことだ。
私はどうしたら山火事を防げるか考えていたら、
『それはなくならないよ。しょうがない。』
『自分たちは大丈夫だから、燃えても平気。』
『また芽を出すから。』
と言われた。
人間と考えることは違うのかもしれない。
そう言われると、人間の言う、“命は尊いものだ。”とはどういうことなのだろうかと考えてしまう。
もちろん木々たちは燃えたいわけではないと思う。
でも、燃えてしまうこともあるのも現実なのだ。
儚いという言葉が合っているのか、健気という言葉が合っているのか…、それとも全く違う言葉が合っているのか…。
たったこれだけの事なのに…深いなぁと思う。
そして車に到着し、乗り込もうとした時に、車の後ろにいた一本の木が、
『あっ、旦那さん、運転気を付けて。』
と言った。
それを私は旦那さんに伝えた。
旦那さんは一瞬固まって、そして肯いた。
たぶん、道路が雪と氷だからだろうと私は思った。
いつも以上に気を付けて車を発進させながら、駐車場から少し低くなっている道路に下りた。
その瞬間、車が横に滑った…。
どのくらい滑ったか分からないけど、ほんの少し程度だった。
車は何事もなくだったけど、私と旦那さんは引きつりながら顔を見合わせた。
そしてまた車を発進させて帰っていると、
『バイバ~イ。』
『また来てね~。』
とか聞こえる中、
『何事もなくて良かったね~。』
と言われた。
聞こえた方に私は肯いた。
キョロキョロと見渡しながら帰っていると、キャンプ場の一体だと分かった。
バーベキューをする広場があって、そこを見ていたら、その中の立っている木に、
『輩もいるよ~。』
と言われ、“やから~?!”とついつい声が出てしまった。
そしたらその木が、自分たちに落書きしたり皮を剥がされたりするという言葉ではなく、思いか何かが届いた。
そういう人もいるわな~と思っていたら、
『分かってるよ~。』
と言われた。
私が一人悩み損なのかもしれないと思った。
そして人からだけではなく、植物からの助言も聞くもんなんだと勉強になった。
旦那さんに、
『あれだけ文句言いながら雪投げてたのに、全然一人じゃないじゃない。知り合いがたくさんいてよかったね。』
と言われた。
後でお母さんにもそのことを話したら、
『何が一人よ!!あなたが一番知り合い多いじゃない。何処に行ったって知り合いがいないことはないんだろうね。楽しそうで羨ましい…。』
と言われた。
もしかして本当に一人ぼっちじゃないのかもしれないと二人に言われて思った。
人から言われて初めて分かることもあるということか。