HANABIRA
君は呟く。
雪でも降って来そうな空のせいだろうか。校門には名残を惜しむ人影もない。
「卒業式には咲いてないし、入学式の時は散ってるし」
学校に植わる桜なら、行事に花を添える程度の気を利かせてもいいだろうに。
僕はポケットに手を突っ込む。
「夏休みには帰って来るんだろ?」
「もう夏休みの話?」
四月になったら君はいない。
新幹線ならたった二時間の距離が、とてつもなく遠い。
「バイトで忙しいだろうしなぁ」
薄い色の空を見上げて君は呟く。
あぁ、君の心はもう既に東京に行ってしまっている。
「お前が来ればいいじゃん」
僕はどんな顔をしていたのだろう。
見上げる瞳が笑っている。
舞い降りて来たのは雪か、花弁か。