金庫も雰囲気に遊ぶ
【登場人物】
○男
○女
とある会社の一室で、男が忙しそうに残業をしている。随分と煮詰まっている様子。
そこへ女イリ。女は自分のデスクに座るが、煮詰まっている男を見て声を掛ける。
女 金子さん。
男 なに、どうしたの?
女 少し休憩にしませんか?
男 ああ…、そうか、そうだね。
女 そうしましょう。
男 そうしようか。
女 よしっ! 備蓄、備蓄!
☆女はデスクから立つと、部屋の隅の戸棚の上から、ダンボール箱を引きずり下ろす。
男 大丈夫?
女 はい、大丈夫ですよ。
☆女は空いている机の上にダンボール箱を置く。
女 何にします?
男 何があるのかな。
☆男は給湯室へ行く。
女 えー。うっほー、さんぺい、狸と狐に、ヌードルの塩と魚介と醤油、カレー、んー、ですね!
男 さんぺいで。
女 はーい、さんぺいでー。
☆女はダンボール箱からさんぺいを取り出す。
女 んー、カレー。
☆カレーも取り出す。
男 カレー好きだね。
女 時々、無性に食べたくなりません?
男 この時間にはちょっとなぁ。
☆女はダンボール箱を戸棚の上に戻す。
女 太りませんもん。
男 若さだね、それは。
☆男が両手に湯呑を持って帰ってくる。
女 あ、食べた人が補充ですからね。
男 はいよー。
☆男と女はカップ麺の準備を始める。
女 おうどん買ってこ。
男 カレーうどん?
女 食べたくなるんですぅ。
男 ふふっ。
女 金子さんは?
男 んー、ぽやんぐ?
女 普通。
男 美味しいよ?
女 そういうことじゃないんです。
男 どうゆうこと?
女 もう。
男 ふふっ。
女 よかった。
男 何が?
女 何でもないです。
男 ふーん。
女 はい。
男 内堀さん。
女 はい?
男 ありがとね。
女 はい。
男 うん。
女 …。
男 …。
女 ふふっ。
男 ん?
女 いえ。
男 んー。
女 …。
男 …。
女 金庫も雰囲気に遊ぶ、か。
男 なにそれ。
女 ことわざです。
男 聞いたことないなぁ。
女 いま考えました。
男 へー、どうやって使うんだろ?
女 こほん。
男 おっ!
女 おやじ、熱燗。
男 へい。
女 はぁ。
男 どうされました?
女 いや、またボーナスもカットだよ。
男 景気上がらないですからねぇ。
女 まったく。
男 景気のいい話でもないですかね、はい、熱燗お待ち。
女 おっ。
☆女は熱燗を飲む。
女 そう言えば、金子に恋人ができたらしい。
男 へえ、そりゃめでたい。
女 なあ。
男 そういえば、少し前、うちにも可愛らしい娘さんを連れてきてましたねぇ。
女 はー。
男 いやぁ、金庫も雰囲気に遊ぶって感じでしたねぇ。
女 あの金子がねぇ。
☆女は熱燗を飲む。
男女 っぽい!
男 っぽいね。
女 でしたねぇ。
男 で、どういう意味なの?
女 んー。
男 なにさ。
女 んふふ、えっとですね。
男 んー。
女 お互いに気持ちは分かっているのに、あえて言葉に出さずに、そのふわふわとした関係を楽しんでる。特に、普段から真面目で不器用な人がそうしていて意外だなって意味です。
男 …。
女 …。
男 金庫?(自分を指さしながら)
女 へへっ。
男 なんだよ。
☆薬缶がピーとなる。
男 おっ。
女 はいはい、少々お待ち下さいな。
男 ありがとう。
☆女は給湯室へ行き、薬缶を持ってくる。
女 ほれ、ほれ。
男 あ、ちょっとまって。
女 待てませーん。
☆男は入れ忘れていた薬味を入れる。
男 もう、ほら。
女 ほいよ。
☆女はお湯を注ぐと、薬缶を給湯室へ戻しに行く。
男 内堀さん。
女 はい?
男 今度、ご飯でも行こうか?
女 ふえ?
男 …。
女 …。
☆女、すげぇ可愛い顔をする。
女 はい。
男 ふふっ。
女 ふふっ。じゃあ、ハンバーグがいいです。
男 ハンバーグカレー?
女 もう、違いますもん。
男 ふふっ。
女 ふふっ。
おわり