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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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板前をしていた与太郎さん。

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『しょうがないよ、ドンちゃんは分かってなかったんだろうし…、それに食べ物のところでうんちしたら誰でも怒るよ。そんなに怖い人だったんだ~。』
と私がそう言っていたら、何だろうか…何かが見えてきた。
『お母さん、お母さん。与太郎さんって…ハゲ?!』
と私は聞いた。
『そうそう、ハゲっていうか髪の毛を全部剃ってたんじゃないかなぁ~。』
『頭に鉢巻きして…。』
『そうそう、鉢巻してたしてた。』
とお母さんは言った。
まだお母さんは気付いていない。
私には与太郎さんの記憶がないのに当てていることを…。
こんな時のお母さんはウケる。
『この人って、あんまり格好良くないね。目が一重で色白で…太ってる…?!』
と私は聞いた。
『そうそう、太ってた太ってた。色白で目が一重。分厚い一重まぶただった。…そうそう、思い出した?!』
と聞いてきた。
なるほど~、この状況だとそう思うわけか…。
お母さんが与太郎さんを思い出しているらしく喜んでいる。
私はそうではないので、
『私に記憶はないよ…。最初から言ってるけど、その人を知らない。』
と私は言った。
さて、お母さんはどう出るか…と思った。
『じゃあ、どうして与太郎さんのことを言えるのよ~。知らなかったら言えるわけないでしょ。』
と言って来た。
なので私は、
『頭の中にじわ~っと見えてきた人がいるから、それを伝えたらお母さんが、“そうそう。”って言うから、この人が与太郎さんかぁ~と思った。』
と私は言った。
『ウソッ?!あなた見えるの?!今そこに…。』
『うん。…なんか笑いながら、“あの時はすんません。こっちもまだ若かったもんで。”って言ってるよ。』
と私は与太郎さんの言葉をお母さんに伝えたら、お母さんがもの凄い声で泣き出した。
ワンワン泣いている。
私があたふたとなる中、また、
『そんなに泣かんでください。あの時はすんませんでした。こっちもカァーっとなったもんで…。』
と言うから、泣いているお母さんに伝えたら、もっと増してワンワン泣いている。
どうしたもんか…と途方に暮れる私…。
まさかお母さんがこんなにも泣くなんて…。
私は与太郎さんに、“おいちゃんどうにかして!!”と言ったら、また別のものが見えた。
私は泣いているお母さんに拍車をかけるかもと思いながら、
『お母さん、この人奥さん?!』
と言ったら、
『ウソッ?!奥さんも~。』
と一瞬止んでまた泣き出した。
『奥さんきれいな人っぽいけど合ってる?!髪が長くて、顔が小さい。目が少しクリっとしてる…かな…。与太郎さんと違って太ってない。』
と説明すると、
『奥さん見たことないの~(泣)。お葬式の時に腫れ上がった顔しか知らないの~(泣)。』
と言うから、奥さんを説明しても意味がない。
『一応、この人が奥さんみたい。奥さんが、“あんな顔をお見せしてすみませんね。気持ち悪かったと思います。”って言ってるよ。』
と伝えたら、泣きながらお母さんが、
『はい、気持ち悪かったです。三十年も経ったのに、鮮明に覚えてます。』
と答えた。
しっかりと自分の気持ちは言えるようだった。
『もう忘れてください。顔ももうあんな顔じゃないので忘れてください。ご迷惑をお掛けしました。』
と奥さんは言うのでそれをお母さんに伝えた。
『あ~、そう言ってもらえるとホッとします。…そう言えば、あの時妊娠してたはず…。子どもは見えない?』
と聞かれても私がどうのこうの出来るわけじゃないからなぁと思っていると、
『お母さん、子どもが見えたよ。男の子。五才~七才くらいの子。奥さんに似てる。』
と言うと、
『へ~!!妊娠してた子ども?!それとも…どういうこと?!』
と言う。
私も首をひねってどういうことだろうかと思う。
そしたら、奥さんが、
『あの時の子どもです。神に助けて頂きましたよ。神様っていたんですね。ほらっ、挨拶しなさい。言う事聞かなくて…。』
と照れてこっちを向かない子どもの頭を触っているのが見えた。
それをお母さんに伝えると、
『へ~、そういうことになってるのねぇ~。神様って言ったね。凄~い。』
と言った。
『お母さん、もしかしたら悪者が見せてるかもしれないから、まだ信じちゃダメだって。』
と言うと、
『あなたは信じなくていい。お母さんは信じられるの。』
と言った。
奥さんが、
『もう死んで行く時の苦しみは神が拭い去ってくれたので、あの時のことは覚えていません。残して来た息子は上から見ていますよ。力強く生きている姿を見ています。』
と言ったので、お母さんにそう伝えた。
『神に救ってもらったんだ。子どもの事も忘れてないんだね。なんか、生きてる子どもに伝えたいね~。』
と言った。
『そんなことしたら、変な人扱いされて警察呼ばれるからここだけで楽しんでましょう…。』
と私は説得した。
『お母さん、与太郎さんが、“家は仏教でした。まさか神がいるとはと思いましたよ。”って言ってるよ。』
『ほぉ~。死んだ後もそんなことが言えるんだ~。』
と感心していた。
『与太郎さんが、“でも、説教がありました。”ってバツが悪そうに言ってるよ。』
と言うと、
『説教?!また聞いた事がないな~。』
とお母さんは言う。
説教って何だろう…とお母さんと二人で考え始めてたら、
『お母さん、奥さんが、“ではまた会いましょうね。”って言ったよ。』
と私は伝えた。
『あっ、は~い。また会いましょうね~。…あ゛~、また会いましょうねってこういう風に使うんだ~。宗教のおばちゃんたちも使うけど意味は分かってないと思う…。』
とまた何かに気付いたらしかった。
いつの間にやらお母さんの涙は止まっていた。