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タトゥーの女

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『タトゥーの女』
 
アンは明るいところでは決して裸にならない。背中に大きな傷があって、それを見られたくない、というのが彼女の言い訳である。もし明るいところで裸にしようものなら、仮に恋人であろうと、虎のように怒り狂う。実際、そのせいで、恋人と別れるはめになったのは、一度や二度ではない。だが、そのことで彼女は後悔していない。

今の恋人は太一と言って、繊細なデザイナーである。 美人で賢いアンには不満がなかったものの、彼はいろんな形で愛を確かめたかったが、彼女はその度に拒んだ。
「正常位で充分でしょ。それ以外は嫌よ」
彼はセックスというものにさほど拘りはあるとは思っていなかったが、それでもバックからやりたかった。あるとき、無理やりにバックからセックスしようとしたら、跳ね除けられた。 驚いて彼女を見た。 薄明りの中で、彼女が怒っているのが分かった。
「バックなんて嫌よ。あれは動物がするものよ」
そう言われて、太一は返す言葉がなかった。
「もう止めよう」と言ってアンは下着をつけた。
そして静かに部屋を出た。
一人残された太一は彼女のことを考えた。
アンはあまり自分を語らない。太一が聞いているのは、アンの両親は幼いときに離婚した。二十歳のときアメリカに二年留学し、帰国した一年後、母は病死し独りぼっちになった。その程度である。あとは何も知らない。アンとは、結婚を前提に付き合ったのに。セックスも互いの相性を確かめるためのものだと考えているが、彼女はあまりしようというそぶりを見せないばかりか、異常といっていいくらいバックを拒む。背中にある傷のせいなのか? いったいどんな傷があるのか? ある時、暗闇の中でそっと探ってみたが、よく分からなかった。……どんなに考えても想像はつかなかった。あることを思いついた。彼女を別荘に誘おう。そこには、天窓がある一室がある。ある時刻になると、月明りが差して、部屋が微妙に明るくなるのだ。その部屋でアンと一緒に寝たなら……

その日は雨だったが、別荘に誘った。
アンと太一は愛し合った。二人とも疲れて寝入った。彼女は寝るとき、必ずシャツを着て寝る。その夜もそうだった。
太一はふと目を覚ました。すると、どうだろう。天窓から微かに月明かりが差しているではないか。 彼はそっとアンのシャツを捲し上げた。すると、どうだろう、彼女の腰に何ともエロチックなタトゥーがあるではないか。虎がいて、その上で裸の男と女が交わっているものだ。びっくりして思わず声をあげそうになった。
シャツを捲し上げたのに気づいたのか、「見たわね」とアンは言った。
「ごめん」
アンは周りを見渡した。天窓から月明かりが差して、薄らと明るい。
「この部屋に誘ったのは、月明りを利用して私の背中を見るため?」
太一は答えられなかった。
アンは微笑んだ。
「タトゥーはアメリカに留学したときに恋人に無理やりされたの。そいつはヤクザよりもひどい男だった。私を恋人にすると、手のひらを返したようにひどい扱いをした。やがて売春婦の真似事もさせられた。彼は自分から逃げないようにタトゥーをさせたの」
そう告白すると、「明日の朝にはお別れね。私は約束を破るような男を信用しないの。あいつもそうだったから」
作品名:タトゥーの女 作家名:楡井英夫