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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十話

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 「もう、何よこの白い道! 全然進めないじゃないの!」

 先行しそうになる二人に追いついて間もなく。
 早くもご立腹の様子で中司さんが声をあげる。

 軽快に走っていたオレたちだったけど、複雑に絡み合い、蔦のように蔓延る白い壁によって止まらざるを得なくなったからだ。
 これだと、慎重に道を選ばなければ、行きたい方向から外れて逆走なんてこともありえる。

 空を見上げると、太陽はほぼ真上にあった。ちょうどお昼くらいだろうか。
 もう少し早い時期に来ていたら、天井がない分直接日光に晒され続けてしまうのできつかっただろうが、今日は思ったよりも陽射しの暑さというものを感じていなかった。
 どちらかというと、だんだんと迫り来ている黒い雨雲のほうが気がかりではある。


 「大丈夫大丈夫、そう見えるだけだって」

 オレと同じように空を見上げていた快君がそう言って中司さんをなだめる。
 だが、この迷路の中では空しか見ることができないので、壁の反対側に目的の広場があったとしてもそれを知るのは難しいだろう。

 ゴールが見えるのなら気持ち的にも楽なのだろうが。
 オレは快君以上に気の利いた言葉が見つからず黙していると、耳が、そう遠くない場所からの騒ぎを拾った。


 「ん? 誰かいるのかな。声が聞こえるような」
 「どこっ!」

 単調な探索に嫌気がさしていたのだろう。
 中司さんは瞳に熱を持って辺りを見回す。
 と、

 「……か、返してくださいっ!」
 
 今度ははっきり聴こえてくる声。

 「こっちみたいだ!」

 それは快君と中司さんにも聞こえたらしい。
 オレたちは一瞬だけ顔を見合わせあって、声のする方へと駆け出す。


 するとすぐに、『プリヴェーニア』のあった広場よりは小さいけど、色とりどりの花壇と、休憩用のベンチなどがしつらえてある区画に出ることができた。

 騒ぎの方へと目を向けると、そこにはおそろいの黒塗りの服を着た二人組の男と、おそらく、この『三輪ランド』で働く女性が着るための制服なのだろう、生成り色のドレスのような服に身を包み、かつらか地毛か……雪のような白銀色に煌めく長い髪の少女がいる。


 「何かトラブルかしら」
 「ああ、そうみたいだな」

 中司さんの言葉に、オレは相槌で返す。
 遠めで見ているわけだが、それでも彼らがオレたちのように同じ目的を持った仲の良い連れ、といった感じには見えなかった。

 「あの娘、大分怯えているようね」
 「ここは、助けてあげなきゃ」

 二人の言葉に、オレも依存は無かった。
 輪永拳の心得第二曲目、『君のために、僕はここにいる』……だ。


 少女は『三輪ランド』のバッジの付いた胸元に、古ぼけた巻物のようなものを大事そうに抱えている。

 「いいからよこせ!」
 「か、返してっ」

 男の一人、どちらかというと太目のやつが、怯える少女からその巻物を奪い取る。
 そして古いものを扱うにはふさわしくない乱雑さで、巻物を開いた。

 「……あっ!」

 少女の心底困ったような声。

 「なんだよ、何も書いてねーじゃねーか、これ!」

 乱暴に巻物を投げ捨てる男。
 少女は男たちには目もくれずしゃがみこんで、巻物を拾い上げると、丁寧に巻き直すと、大事そうに抱えなおした。
 その様を、その視線だけで相手を汚せるんじゃないかっていう目つきで見下ろす男二人。

 「……くく、シャバに出ていきなりこんな上玉に出会えるとはな」
 
 もう一人の、ひょろ長い背丈をした男が、ほくそ笑む。

 「な、何ですか?」

 不穏な空気を感じ取ったのだろう。少女のさらに怯える声。


 「……のっ!」

 オレは、そんな少女の声を聞くか聞かないかの所で駆け出していた。
 それはほとんど無意識の衝動だった。
 そんな自分が信じられない。
 故に、怖かった。
 何で身体が勝手に動いているのかと。

 普段なら厄介事はなるべく避ける……と言うか、自分から他人にアクションを起こすことなどまず無いと思っていたのに、オレの身体は動きをやめようとしない。


 「ぐえっ」

 そしてその勢いのままに、後ろ襟首を右手で引き、膝から太目の男の背中に飛び掛り、そのまま体重をかけて地面に叩きつける!
 不意打ちもいいところで、格闘家としてはいただけない方法だろうが、相手が悪い……なんて根拠のない怒りが、オレを支配する。

 「な、何だてめっ! 何者だっ?」
 「知るかっ、バーカっ」
 「んだとぅっ!」

 冷静にって思っていても、湧き上がる感情が止められない。
 そしてそのまま、もう一人のひょろりとした男とつかみ合いになった。
 ファーストアタックは、相手の虚をつけたから何とかなったが、相手はどうやらこういった諍いには手馴れているようだ。力もある。

 徐々に押され、どう出るべきか考えを巡らせていると、男は叫んだ。


 「調子に乗るなよ、クソガキ!」

 途端に瞳が荒んだ昏い力を宿す。

 ……来るっ!
 と思ったその時。

 バチィッ!

 「ぎゃっ!」

 小気味良いスパーク音がして、男はそのまま前のめりに倒れこんだ。
 何だ、雷の魔法? いやいや、まさか!
 呆然としてそちらを見ると、中司さんが、「女の敵っ!」と言わんばかりに、明らかに改造が施されているであろう大きなスタンガンを片手に、男を見下し……もとい、見下ろしている。

 「……よ、用意いーなあ」

 こわっ、いきなりなんてものをっ!

 「こんなもの、常備が当たり前よ」

 当然、と言った態度で中司さんは胸を反らした。
 やっぱり怖いよっ、どんな日常生活だよ、そんなブツが常備って!

 いろいろとつっこみたい気持ちがあったが、触らぬ神に祟りなしということにして、そのままオレは白銀色の髪の少女に声をかけることにする。



 「大丈夫だった……っ」

 振り返り、君? と言おうとして少女の、仄かに揺れる朱を秘めた……黒の瞳がオレを映した瞬間、硬直する。
 それこそ、スタンガンの電撃よりもアツイものが全身の神経を震わせ、血流が沸騰する感覚。


 ……予感はあった。
 この場所に足を踏み入れた時から。
 彼女のその特徴的な髪が視界に入った時から。
 オレはきっともう既に確信していたのかもしれない。

 ―――彼女は紛れも無く、オレが夢で会った少女だったのだ。

 そんな事あるはずないのに。
 そう思うと、心震える。

 そのまま二の句をつげないオレに対して言葉を待つようにきょとんとする彼女。
 わずかな沈黙の後、しかしオレは勝手に言葉を吐き出していた。

 
 「やっと、会えた……ね。これで君を助けられる」
 「……えっ?」


 って、あれ? オレ今?

 「な、なな何言ってるオレってばっ?」
 「わわっ」

 うわあああああっ!
 思わずそう叫んで慌てふためくオレに対し、彼女もひどく驚いた様子でこちらを見てくる。
 だあっ、これじゃ変な人だぞ、落ち着け、オレっ!
 ……なんて内心で自分に突っ込んでいると。


 「ぐぐぅっ……」

 最初にオレが蹴倒した太目の男が呻く声がする。

 「いけないっ、さっさと逃げるわよっ!」