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でんでろ3
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novelistID. 23343
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風と呼ばれた男

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そのトンネルの中では、外の真夏の暑さが嘘のようであった。心地よい風が常に吹き抜け、熱気を追い払っている。
 そのトンネルの壁にもたれて1人のホームレスが静かに眠っている。
 やがて彼の前に1人の青年が立ち止る。少しだけ大きめの荷物を持っている。旅をしているようだ。
 ホームレスは青年の気配に気付いて目を覚まし、話しかける。
「なんか用かい? 兄ちゃん。それとも、ほどこしでもしてくれるのかい?」
「……風と呼ばれた男の伝説を追っている」
「ハッ、つまらんことを知っているな。そいつは死んだよ。ここにいるのは、ただのホームレスさ」
「俺の名は、ビル・カルバイン」
それを聞いて、ホームレスは驚いて、青年の顔を見上げた。
「そう、ジョー・カルバインの息子だ」
ホームレスは、はっきりとビルの中にジョーを見た。
「なぜ、この世界に足を踏み入れた?」
それは、独り言のように。
「奴だって、そんなことは、望んじゃいなかった!」
そして、叫ぶように。

 その時、トンネルの中に絹を裂くような声が響き渡る。
「いや! やめて! 離して!」
「へっへっへっ、いいじゃねーかよー。一緒に行こうぜー」
セーラー服の少女に、ニッカポッカをはいた男が、絡んでいる。
 それを見たビルは、荷物を下ろすと、無造作に男に近付いて行った。
「おい! その薄汚ねぇ手を放しな!」
「うっせぇ! てめぇは、すっこんでろ!」
 その瞬間、閃光が弧を描き、鮮血が舞った。
男の手には、ナイフが握られていて、ビルは腕に傷を負った。
ホームレスがビルを引っ張って距離を取らせた。
「まったく、敵が丸腰かどうかもわからんのか?」
ビルは何か言い返してやりたかったが、その時には、ホームレスは男と対峙していた。
「お前さん、少々やりすぎたようだな」
「うるせぇ! じじぃ!」
その瞬間、ホームレスが動いた。速い。それは、まさに、風のようであった。
瞬きする間もなくホームレスの身体は、男と少女の間に割って入ると同時に、しなやかに沈み込み、そして、


少女のスカートが高々とめくれ上がったかと思うと、それが戻るより早く、ホームレスは元の位置に戻った。
一同、あっけにとられていたが、ビルが最初に正気に戻った。
「……爺さん、今のは、一体……?」
「いやー、ワシは、子供の頃からスカートめくりが得意でのう、『いたずら好きな春風ちゃん』なんて呼ばれたりしたもんじゃ。ほーっほっほっほっ……ぶげっ」
ビルの回し蹴りがホームレスの延髄に入ると、ホームレスは地に倒れた。
「いくらなんでも、それはやりすぎなんじゃあ?……うげっ」
ビルの踵落しが男の脳天に決まると、男はあっさり沈んだ。
「どうも、危ないところを助けて頂いて……ぶごっ」
少女が下げた頭を、ビルが巻き込んで投げると、少女は気絶した。

 ビルは、荷物を持って、再び、歩き出した。
 ビル・カルバイン、27歳、彼の目指す場所は、風よりも遠い。
作品名:風と呼ばれた男 作家名:でんでろ3