時間転送機
「やりましたね。博士」
「やったよ。助手」
「……その『助手』って呼ぶの、やめてもらえませんか?」
「なぜだね? JOJOみたいで、カッコいいじゃないか」
「そんなことないでしょう」
「そんなことより、もっと喜びたまえ」
「ついに、時間の壁を破りましたね」
「名付けて『時間転送機』だ」
「早速、時間旅行と行きましょうか?」
「……出来ないよ」
「えっ?」
「いや、まだ、時間旅行は出来ないと言っとるんだ」
「どういうことですか?」
「これは、時間転送機から時間転送機に人間や物を送る機械だ」
「そうですね」
「だから、この時間転送機の存在した過去と、この時間転送機が存在している未来にしか行けないんだ」
「使えねー」
その時、一見、ごちゃごちゃボタンや基盤がくっついた掃除用具ロッカーのように見えなくもない時間転送機のドアが、ガバッと開いて、
「そんなことは、なーい!」
と、博士が叫びながら、出てきた。
「誰だ? お前は?」
「私は、3分後のお前だ」
「実験するにしても、もうちょっと待てなかったんですか?」
「そんなことより、ボヤボヤするな、3分前の俺、お前も過去に行かないと、矛盾が生まれるだろ!」
「おぉ、そうか。いってくる」
そう言うと、この時間の博士は時間転送機に入り、ドアを閉めた。
ゴリュゴリュボシュシュン
と言う音と閃光と振動を残して、博士は行ってしまった。
すると、ふいに、助手は、何かを思いついたようだった。
「あれ? ちょっと待ってくださいよ、博士。もしかしたら、はるか未来の世界中いたるところに行けるんじゃないですか?」
「なに?」
「これだけ便利なものです。ずっとずっと未来では、世界中、いや、宇宙中に普及しているかもしれません」
「うーむ、それは、どうかなぁ? 時間旅行には危険が伴う、政府によって、厳重に制限、あるいは、秘匿されているかもしれないぞ」
「なんにしても、どんな形にせよ、未来において、このシステムがあれば、そこに出られるはずです」
「しかし、出た先が、どんなところか予想できんぞ。未来が平和とは限らない。武装国家の中心にいきなり現れて、蜂の巣なんてことも……」
「危険は承知の上です。科学の進歩のため、いや、それ以上に、未来をこの目で見てみたいという衝動が抑えられないのです」
「……分かった。そこまで、言うなら行きたまえ」
助手は時間転送機に収まり、博士は操作パネルにかじりついた。
「できるだけ遠い未来の回線をサーチして繋ぐ。それで、いいな?」
「お願いします」
「……よし、回線が繋がった」
その瞬間、鳴り響く電子音。
「あ、キャッチホン入っちゃった」
博士は、そう言って、反射的にボタンを押した。
「ギャーッ!」
助手が悲鳴を上げた。
博士が大急ぎで時間転送機を止めて、ドアを開けると、助手の頭に大きなチョコレートケーキが載っていた。と言うか、助手の頭がチョコレートケーキと同化していた。
ハラリと何かが落ちた。「ハッピー・バレンタイン」と書かれたメッセージカードだった。
「これ、博士の字ですよね?」
「そう……だね」
「こうなるって、分かっていても、やっぱり、送るつもりですか?」
「でも、……ほら、やっぱ、タイムパラドクスって、怖いじゃん?」
「私は、どうなります?」
「……、いや、……、ねぇ」
「……こんなもん、ぶっ壊してやるーーー!」
助手が、時間転送機に襲い掛かろうとした瞬間、時間転送機のドアが開いて、博士がもう1人現れた。
「そうは、させん」
そして、その後、次から次へと、博士が10人ばかり現れて、助手を担ぎ上げると、何処へやら運び去ってしまった。
「ふー、やれやれ、じゃあ、チョコレートケーキとメッセージカードを買いに行くか」
そう言って、3分後の博士は、買い物に行くのであった。