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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第六話

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 それは夢だ。
 叶えるものではなく、眠る時に見る夢。
 ここ最近、頻繁に見る雨の夢。
 何故、これが夢だと分かったのか、答えは単純だ。


 目の前に広がる景色が現実にありえないくらいに、
 荘厳で、美しく、儚いものだったから……だ。

空は昏く厚い雲に覆われ、
出所の見えない膨大な滝から零れ落ちる水のように、とめどなく雨が降っている。
遠巻きに見ると、その場所は古い町並みのようだった。

 イメージとしては、ある意味ベタな中世ヨーロッパあたり。
 しかし、それに一体化しようとして、ひどく浮いてしまっている建造物が目に入る。


 ―――空飛ぶ屋形船。

 ―――孤高にそびえ、廻る観覧車。

 ―――そして、乱反射するイルミネーションが眩しいメリーゴーランド。

雨の雫と混ざり合って幻想的な景色を見せてくれるそれらに、息すらも忘れそうになる。

 
 だが、それらの何よりも。
 目の前に立ち尽くして空を見上げ続けている白銀色の髪の少女から。

 目が離せなくなっていた。

 
 それは雨のせいなのか、光の加減なのかは分からない。
 それ自体が虹色に発光しているのではないかと思えるくらい、目に映える白銀色の長髪。
 生成り色のドレスからこぼれる肌は滑らかで細く、顔立ちは儚いほどに整っていて。

 その表情が泣いているように見えても、
 拭いきれない哀しみに支配されているのだとしても、
 少女は美しかった。

 それはまさに、理想だ。
人としての機能が欠如してるんじゃないのかって思ってたオレが、こんな子だったらと思えるような。

今思えば、それは一目惚れというものだったのだろう。
夢だと分かっていながら何て調子が良いんだとも思ったが、事実なのだから仕方がない。

 オレ普段なら絶対にありえないだろうが、その子に声をかけようと自分から近付いた。


 が、しかし……。


 ゴオオオオオオオオッ!!

 その音は、はっきりと肌に、心に残った。
 音だけで吹き飛ばされてしまいそうな、そんな印象を受ける。
 どこが支点なのかも分からない本当に飛んでいるように見える屋形船が。
 突然オレとその少女を隔てるかのように通過したんだってわかって。

 鼻先を掠める風は、夢だというのに妙にリアルで。
 オレが立ちすくんでいるうちに、少女は消えてしまった。

 行方が分からなくなってしまったんだ……。



         ※      ※      ※



 「……っ」

 オレはそこで、目を覚ます。
 不思議な夢だったと首をまわしつつ、夢だったのかと悟って沈みこみそうな気分を振り払う。

 電車の座席……その対面には快君と中司さんがいて、何やら話し込んでいた。

「ちょっと? 雄太、何寝てるのよ! 話聞いてた?」
「え? あ……いや」

 相変わらずの不機嫌さに、オレは口ごもる。
 いや、よく考えてみると、彼女はいつもこんな感じだったっけ。
 別に怒っているわけでもなさそうだった。
 例えて言うなら、口うるさい先生か。

 それが素なのか、何かあるのかは分からないけど、もったいないと思う。
 笑えば可愛いのに。それじゃ人生損じゃないかな?
 オレはあくびを噛みころし、そんなことを考えていると、隣にいた快君がフォローしてくれた。

「黒陽石の話だよ。隠し財産ってくらいなんだからきっと凄いものなんだと思うんだけど、大きさはどのくらいなのかな、とか、いくら位の価値があるのかな、とか」

 快君は中司さんとは対照的に、まるで悩み事など何もないといった風の柔和な笑みを浮かべる様は、何だか微笑ましくて、オレまで自然と笑みを浮かべてしまうほどだった。
 オレは二人で足して一つになればちょうどいいかもなんて考えつつ、疑問に思っていたことを尋ねる。

「なるほど。で、その黒陽石が隠し財産だっていうのはさ、どこでそんな情報を仕入れたんだい? それもアキちゃん?」
「何を言っているの? 部長が話してたじゃない。じゃなきゃ、いくらくじ引きとはいえ海外差し置いてこっちを取ったりしないわ。久保田の抜け駆けは許せないけど」

 それを聞いたオレはまたしても首を捻った。
 だってオレ自身は部長にそんなこと一言も聞かされていなかったからだ。
 もちろんしおりにも、そんな事は書かれていない。

「オレ、聞いてないなあ。そんなこと」

 考えていたことを、そのまま二人に言うと。

 「え、そうなの? 部長言い忘れてたのかな」
「部長のことだから雄太に黙ってて、サプライズの提供でもしたかったんじゃない?」
「はは、そうかも」

 オレは二人の言葉に曖昧な答えを返すしかなかった。確かに部長ならやりかねない。
 そうやって、人が驚きふためくのを見るのが、三度の飯より大好きな人だからだ。
 たちが悪いのは、その事をオレがありだと思っちゃってる所だろうけど。

「でも、それはいいとして、隠し財産になるような黒陽石があるってのは本当に確かなの?」

 自分だけ聞かされていないというひがみとかじゃなくて、オレはその話に胡散臭さを感じていた。
 まあ、『立ち禁』になっているってこと自体もうそ臭いのは確かなんだけど。

「うん、絶対にあるよ!」
「そうね、私もそれは確かだと思うわ」

 しかし、何故か二人はそろって絶対に黒陽石はあると主張する。
 その根拠がまるで分からない。どうしてそんなに信じられるんだろう?
 それを尋ねてみても、勘だとか根拠のない答えが返ってくるだけだった。


 だからこそ、その時のオレはまだ知る由もなかったんだ。

 その勘が、当たるなんてことを。


             (第7話につづく)