よき時代
…あ、また始まった。
お父さんの「昔話」。
まだ子供のころは、TVは白黒もあってでなー。
TV自体も、リモコンなんかじゃないんだぞ。
チャンネルをTVの前まで行って、ガチャガチャ回すんだ。
電話機はダイヤル式でなー。ジーコ、ジーコって、ダイヤルが回るんだぞ。
そういえば、まだお前のおばあちゃんが洗濯板で洗濯してたこともあったっけ。お父さんがまだ幼稚園に上がる前だったと思うけどな。
携帯なんてなかったから、待ち合わせで待ちぼうけ食らったこともあるしなー。
家の電話で長電話したら怒られるから、近くの公衆電話まで走っていって、だらだらと長電話したこともあったなー。
パソコンなんてなかったから、今では珍しい文通なんてのもやってたなー。
自分宛の手紙が郵便受けにあるって言うのは、すごくうれしいものなんだぞ。
あ、今来る請求書は、ぜんぜんうれしくないけどな。
山口百恵なんて、知らないだろ。
お父さん、大ファンだったんだぞ。引退したときは、泣いたなー。
あ、お母さんには内緒な。
キャンディーズも好きだったな。
でも、お父さんはピンクレディーの方が好きだったな。ミーちゃんのあの健康的な太ももの感じがなんとも…。
あ、お母さんに言うなって、言ってるだろう!
「泳げたいやきくん!」なんていう歌がすごく流行ったな。
♪むぁーいにち、むぁーいにち、僕らは…♪うるさいぞ、音痴だからって、馬鹿にするな。
お酒を飲むと延々と続く、お父さんの「昭和時代自慢」。
ねえ、お父さん、お父さんの子供の頃って…世界、白黒だった?
拳骨が頭の上に振ってきた。