拝啓 へんりー・じぇいむす君
先生です。先生が今まで「結婚」していないということを暗に非難しているようにも受け取れなくもない、素晴らしい作文です。先生の年齢を書かないところもまた憎いくらい可愛いです。していない=できないとは明確に書いてはいないけれども、「先生ならわかってくれる」と投げてくるあたりに、悪意があるのかないのかを先生は察してしまいます。先生の書いている言葉や文は、まだへんりー君の年齢では理解できない部分もあると思いますが、あえて書きます。なぜならば、いまの先生の気持ちを表す場合、子供に分かってもらうという媚びた言葉ではうまく表現できないからです。わかりますか。言葉はダイレクトです。ダイレクトというのは英語ですから日本語にします。「直接的な」という意味です。気持ちや心にある思いをきちんと言葉にすることが大人である先生の使命です。先生は遠回しができない女の子なんです。そのお蔭で結婚ができないとは思っていませんが、へんりー君の素朴なゆえに相手を痛めつける言葉を読んだときに、まず自分のダメなところが思い付いてしまうものなのです。でも、それがダイレクトな理由だとは思いません。理由が一つということはありません。算数の答えとは人生は違います。教科書に書いてあることは、ある一つの例であります。世界は広いんです。社会で習いましたよね?そんな社会の中に出ていけば、いろいろな事件や問題に対して、理由なんていくらでもあるんです。そう、あるに決まっているんです。いま、へんりー君は隣のクラスのなっちゃんに、純粋な気持ちから「ぷろぽーず」を生意気にもしていましたが、ああ、まだしてはいませんでしたね。そんな気持ちはいつまでつづくのかな~なんて先生は思ってしまいます。なぜかって、それはいろいろな理由があります。一つだけなんて有り得ません。一つ上げたら切りがないのであえて挙げません。挙げてしまったら、ああ、そういうことねって間違って理解されちゃうんです。いいですか。そういうもんなんです。だから、言葉は難しいんです。遠回しな言葉を選んで、上手に相手に伝えて、多少誤解されてもあとで、「ああ、そうだった~」とか「もう、忘れちゃった~」なんて可愛いいふりをして、後ろを向いて「エヘっ!」とかいってペコちゃんしていればいいとは分かっていてもね、そうことができない女の子もいるんです。なっちゃんのことは知りませんよ。背がすらっとしてて、確かに可愛くて大人しいけどやるときはやるって噂はきいているけれど。先生は違うタイプなんです。違うタイプってことは、違う感じ方、違う考えがあります。人間はみな違いますから、みんな違う考えのなかで生きています。それでも、協力して、理解しあって、助け合って生きていけば、より平和で美しい世界が出来上がるはずだという理想の元、頑張っています。人間は頑張っています。先生だって実は頑張っているんです。目には見えないところで努力しているんです。それをあえて見せないだけです。そういうタイプなんです。先生の良いところだと思います。へんりー君は分かっているかな。もし少しでも分かってくれていたら、もう少し優しさをもって言葉を選びましょうね。なにか変なこといってる?間違ってる?矛盾してる?矛盾って知ってる。これを機に知りましょうね。人生は矛盾です。だから、先生は闘っているんです。いいですか。そこを分かったうえで、文集の作文を書きなおしましょうね。「ありがとう。やっぱり優しいね、へんりー君は」って、先生に言わせましょうね。いいですか。とってもいい作文ですよ。でもね、「愛」がもっとあるといいですね。
では、書き直し待ってます。〉
「え~~~っと。これを、どう翻訳しようかな。」
と先生はパソコンの前で頭を掻き毟った。
(おわり)
作品名:拝啓 へんりー・じぇいむす君 作家名:佐崎 三郎