証明できる?
「生前は何をやっていた?」
「はい、私はソプラノ歌手でした」
「証明できるか?」
「はい、ではここで歌いましょう」
男は胸の前で手を組み、見事なソプラノでカンツォーネを歌った。
「うむ、確かに歌手の様だ通れ。次、お前は何をやっていた?」
「はい、私は生前ボクサーでした」
「証明してみろ」
男は軽妙なフットワークで小刻みに揺れながら、ぶうんと空を切るジャブをストレートを放ってみせた。
「見事なパンチ、確かにボクサーに違いないだろう。通れ、次、お前は生前何をしていた?」
「はい、私は政治家でした」
「証明できるか?」
「はい、では」
男は大仰な身振り手振りで、演説を始めた。天使の表情が曇る。
「それでは証明にならん。職業が確認できない場合は、即座に地獄行きと決まっている」
「ま、待ってください!私は本当に政治家だったのです」
「ふうむ、ではこうしよう。何でもいいから、一芸を披露しろ。それがある程度の出来栄えであったなら、取り敢えずここを通してやろうではないか」
「有難うございます。では私も歌を歌います。生前はプロ顔負けの腕前と、もっぱらの評判だったのですぞ」
男はぐりんぐりんと上体を回しながら、歌を熱唱した。天使が引く。
「下手だ。聞くに堪えない。よくその腕前で、『プロ顔負け』などと言えたものだな」
「う、では踊りを踊ります。世界的に有名なダンサーである、あのアレクセイ氏に絶賛された踊りです」
男は腹を捩らせて、奇妙に腰をぶんぶん振り回しながら行ったり来たりを繰り返す。天使が顔を顰める。
「酷いな。よくそれを踊りだと言えるな……お前、言うことだけは立派だが、まったく何もできないではないか」
天使、ため息を吐いて。
「政治家に間違いなかろう。通れ」