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世紀末の生き方 「旅支度」 その二

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世紀末の生き方 「旅支度」 その二


 「さてどこまで話したかな?」

 トタン材の納屋に背を預けて座っている男がつぶやいた。
現状自分がどこまで話したか再確認の意味合いと、色の良い
相槌を期待しての発言である。

 「中華鍋が役に立つって、言ってたところだよ。」

 真面目に聞いていたのか、少年が元気良く答える。こういった冒険、生存術
の話題は夢想家の少年の好奇心をいたく刺激した。おそらく彼は日々このような話で
暇を紛らわしているのだろう。
 
 「そうか、そうだったな。最近まで旅をしてたせいか眠くてな。しかし喉が渇いちまった。
水はどこかにないかな?」

 彼はやさしい声で懇願した。この町「グンマ」は山の麓に位置し、乾燥した風が吹き付ける場所ではあるが、
彼の喉はそこまで水を欲してはいなかった。
 彼の行為の狙いは、この子供がどのくらい友好的か推し量るためであった。
 この世紀末の世界の中、人々の多くはお互いの資源を狙ったり、騙し金品をせしめたり、犯罪行為に手を
染めている。街中では治安が維持されているとはいえ、ボッタクリや置き引き、スリ誘拐など
が多発しており、信頼できる人間を見つける能力が、旅人には不可欠であった。
 男は大抵どの町でもこのように子供相手に話して、信頼できる相手や情報を見つけてきた。
 
 「うんいいよ。そこで待ってて。」

 少年が答え駆けてく後姿を見ながら、安心感からか男は一息ついた。そして少年が来るまで指で地面を弄くり
掬い上げながら、しばしの間何もせずに待つ、という行為を楽しんでいた。
 先の予定が決まったことが、彼の機嫌をほん少しばかり良くさせた。

「うまくいけば宿にありつけるかもしれない、物置でもいい。とにかく安心して眠れる場所が欲しい。」

男は最後に味わった毛布の感触を、懐かしみながらそう望んだ。
しばらくすると、少年がコップを持ってやって来た。縁からはなみなみと注がれた水がはみ出し、こぽれている。
雫が伝い、指を濡らした。しかし少年は指にまとわり付く不快感を気にせず、男にコップを差し出した。

「ほらおじさん。持ってきたよ。」

男は優しくコップを掴み、口元に運んで半分ほど一飲みした。そして
喉を乾きから開放した男は、溜め込んでいた息を吐き、少年に向かって語りかけた。