夏恋花火
夏恋花火
【著】大島恭平
【登場キャラ】
・シン
・謎の浴衣姿の女性
・少年の父親
・柊
・ツバキ
シーン0
●SE・打ち上げ花火
シン 「あの夏、俺は花火に恋をした」
シーン1
●場所・学校の教室
SE・学校のチャイム
SE・ガヤガヤ
柊 「そういえば、決まったらしいな。」
シン 「ん?何が?」
柊 「何って、花火大会の日程だよ。」
シン 「あぁ、そういえばそうだったな。確か一ヶ月後だっけ?」
柊 「お前そんな緩くて大丈夫なのか?お前ん家、結構忙しいだろ。」
シン 「う~ん。まぁな。でも俺が心配することでもないよ。」
柊 「そっか。しかし、十年に一度ってかなりブランクあるようで意外とあっという間だったな!俺が最初にここの花火を見た時はまだガキだったなぁ」
シン 「今も十分ガキじゃねぇか。将来が心配だぜ」
柊 「余計なお世話じゃ!そんなお前の将来はどうなんだよ」
シン 「俺は進学するよ。とりあえずな」
柊 「なるほどねぇ。進学かぁ・・・どうだ?帰り暇なら息抜きがてらに、飯でも食って帰ろうぜ」
シン 「いや、俺これから神社の掲示板に花火大会のチラシ貼らなきゃいけないから今日はパスで。」
柊 「そっか。了解。ってか、チラシ持ってるのにお前は本当に関心がないんだな。」
シン 「別に俺は花火一緒に見る人いないからな(笑)。お前はせいぜいあの怖い彼女さんと楽しんで来いよ。」
柊 「ハハハ。彼女じゃねぇよ(笑)怖いのは本当だけどな。」
シン 「まぁお互い有意義な花火大会を過ごそうぜ。」
シーン2
●場所・神社
SE・石の階段を上る音
シン 「とりあえずチラシは貼ったし、帰るか・・・」
女 「あっ、やっぱり今年もやるんですね!」
シン 「え?」
●SE・風が吹く音
シン語り:振り返るとそこには、浴衣を着た女性が立っていた。
シン 「・・・・あの、」
女 「あっ、ごめんなさい。花火大会がやると知ってつい。」
シン 「花火、好きなんですね」
女 「えぇ、まぁ・・・あなたは、花火好き?」
シン 「普通ですかね。小さい頃からよく見せられてきたから、慣れちゃって」
女 「そうですか。それでも、ここの花火はとても素敵だと私は思いますよ」
シン 「まぁ十年に一度しかやらないから、力の入れようが半端ないんです」
女 「かもしれませんね。でも、十年前は私が見たい花火を見ることが出来ませんでした。」
シン 「そうなんですか・・・」
女 「だから今年は、きっと打ち上げられるって信じてるんです。」
シン 「打ち上げられるって、何がですか?」
女 「四尺玉って知ってます?」
シン 「まぁ知ってますけど」
女 「その四尺玉が打ち上げられるのを私は待っているんです。」
シン 「えっ、でもうちの花火大会はそんなデカい花火打ち上げませんよ?記憶は確かじゃないですが、十年前でも最高は三尺だったはず」
女 「えぇ。私も見てました。確かに、最後に打ち上げられた花火は三尺玉で間違いありません。それでも・・・」
シン 「それでも?」
女 「二十年前は、打ち上げようとしたんです。まぁ結局打ち上げは失敗してしまったんですけどね。」
シン 「二十年前…あ、親から話だけなら少し聞いたことがあります。俺が生まれる前に花火大会で事故があったって。それって四尺玉が原因だったのか」
女 「えぇ。」
シン 「そうなると、打ち上げは難しいんじゃないですか?また同じことになったりでもしたら」
女 「やっぱり」
シン 「ん?」
女 「やっぱり四尺玉は、もう見れないんでしょうか」
シン 「え・・・・っと」
女 「私はずっと彷徨ったままなんでしょうか」
シン 「・・・・さまよったまま?」
女 「あなたは、花火の打ち上げが失敗したらどうなると思います?」
シン 「花火の打ち上げが失敗したら?そりゃ、大勢の人が怪我をする。」
女 「そうです。でも、人だけではないんですよ」
シン 「えっ?」
女 「打ち上げに失敗した花火の魂はそのまま現世で彷徨うことになる」
シン 「どういうことですか?」
女 「花火の一生は短い。セミと似たようなものですね。成熟されるまではじっくりと時間をかけ、そしていざ成熟したら空に羽ばたき、間もなく命が尽きてしまう。それでも一度だけでも空に羽ばたけたことは彼らにとって幸せなことなんです。でも、その中には空に羽ばたけなかった花火もある。その報われなかった花火たちが、唯一空に還る方法が、花火を見ることなんです。自分と同じ花火を、空に打ち上げられた自分の姿を見ることにより、それらの魂は報われる。だから、私もその花火を見たいんです、自分自身を…みたいんです。」
シン 「その話・・・本当なんですか?」
女 「嘘だと思います?」
シン 「だって、そうだとしたら、あなたは・・・」
女 「えぇ、そうです。私は二十年前に打ち上げに失敗した、花火なんです。」
シン語り:あの後、俺はすぐに神社を後にした。正直、俺はほとんどの彼女の発言を信じることが出来ていない。今日会ったばかりの女性が、実は花火の魂でした。なんて、どうやって受け入れろというのだ。なんかの冗談だろ?でも、あの時の…「私はずっと彷徨ったままなんでしょうか」というセリフ。それを言った時の彼女の悲しげな表情が今でも頭から離れない。
シン 「四尺玉か・・・」
そんなことを思っていた時には、もう俺の考えは決まっていたのかもしれない。
もう一度、花火を見せてあげたい。例え、彼女が何者であったとしても。
シーン3
●場所:帰り道
SE:携帯
シン 「もしもし、ツバキか?」
ツバキ 「シンくん?どうしたの?」
シン 「いや、ちょっと聞きたいことがあって。」
ツバキ 「聞きたいこと?宿題の件だったら断るからね。」
シン 「違う違う。実は、20年前の花火大会のことなんだけど。」
ツバキ 「20年前?あのさ、20年前って私たちが生まれる前のことじゃん。どうしていきなりそんなこと…」
シン 「知らないの?」
ツバキ 「まぁ知ってるけど。」
シン 「今度、駅前のクレープ奢るから」
ツバキ 「トッピングは?」
シン 「二種類までなら許そう。」
ツバキ 「もう一声」
シン 「太るぞ。」
ツバキ 「うっ…分かった分かった。それで手を打つわ。それで、20年前の花火大会についてだっけ?」
シン 「あぁ、できるだけ詳しく知りたい。」
ツバキ 「えーーと、確かその年は……あ、今回の花火大会と同じ開催日だね。開催場所も今回と同じ。交通機関は流石に今よりは優れてないから、遠方からのお客を集めるのには難しかっただろうね。それでも、来客数は今までで一番多かったはずだよ。」
シン 「四尺玉…だろ?」
【著】大島恭平
【登場キャラ】
・シン
・謎の浴衣姿の女性
・少年の父親
・柊
・ツバキ
シーン0
●SE・打ち上げ花火
シン 「あの夏、俺は花火に恋をした」
シーン1
●場所・学校の教室
SE・学校のチャイム
SE・ガヤガヤ
柊 「そういえば、決まったらしいな。」
シン 「ん?何が?」
柊 「何って、花火大会の日程だよ。」
シン 「あぁ、そういえばそうだったな。確か一ヶ月後だっけ?」
柊 「お前そんな緩くて大丈夫なのか?お前ん家、結構忙しいだろ。」
シン 「う~ん。まぁな。でも俺が心配することでもないよ。」
柊 「そっか。しかし、十年に一度ってかなりブランクあるようで意外とあっという間だったな!俺が最初にここの花火を見た時はまだガキだったなぁ」
シン 「今も十分ガキじゃねぇか。将来が心配だぜ」
柊 「余計なお世話じゃ!そんなお前の将来はどうなんだよ」
シン 「俺は進学するよ。とりあえずな」
柊 「なるほどねぇ。進学かぁ・・・どうだ?帰り暇なら息抜きがてらに、飯でも食って帰ろうぜ」
シン 「いや、俺これから神社の掲示板に花火大会のチラシ貼らなきゃいけないから今日はパスで。」
柊 「そっか。了解。ってか、チラシ持ってるのにお前は本当に関心がないんだな。」
シン 「別に俺は花火一緒に見る人いないからな(笑)。お前はせいぜいあの怖い彼女さんと楽しんで来いよ。」
柊 「ハハハ。彼女じゃねぇよ(笑)怖いのは本当だけどな。」
シン 「まぁお互い有意義な花火大会を過ごそうぜ。」
シーン2
●場所・神社
SE・石の階段を上る音
シン 「とりあえずチラシは貼ったし、帰るか・・・」
女 「あっ、やっぱり今年もやるんですね!」
シン 「え?」
●SE・風が吹く音
シン語り:振り返るとそこには、浴衣を着た女性が立っていた。
シン 「・・・・あの、」
女 「あっ、ごめんなさい。花火大会がやると知ってつい。」
シン 「花火、好きなんですね」
女 「えぇ、まぁ・・・あなたは、花火好き?」
シン 「普通ですかね。小さい頃からよく見せられてきたから、慣れちゃって」
女 「そうですか。それでも、ここの花火はとても素敵だと私は思いますよ」
シン 「まぁ十年に一度しかやらないから、力の入れようが半端ないんです」
女 「かもしれませんね。でも、十年前は私が見たい花火を見ることが出来ませんでした。」
シン 「そうなんですか・・・」
女 「だから今年は、きっと打ち上げられるって信じてるんです。」
シン 「打ち上げられるって、何がですか?」
女 「四尺玉って知ってます?」
シン 「まぁ知ってますけど」
女 「その四尺玉が打ち上げられるのを私は待っているんです。」
シン 「えっ、でもうちの花火大会はそんなデカい花火打ち上げませんよ?記憶は確かじゃないですが、十年前でも最高は三尺だったはず」
女 「えぇ。私も見てました。確かに、最後に打ち上げられた花火は三尺玉で間違いありません。それでも・・・」
シン 「それでも?」
女 「二十年前は、打ち上げようとしたんです。まぁ結局打ち上げは失敗してしまったんですけどね。」
シン 「二十年前…あ、親から話だけなら少し聞いたことがあります。俺が生まれる前に花火大会で事故があったって。それって四尺玉が原因だったのか」
女 「えぇ。」
シン 「そうなると、打ち上げは難しいんじゃないですか?また同じことになったりでもしたら」
女 「やっぱり」
シン 「ん?」
女 「やっぱり四尺玉は、もう見れないんでしょうか」
シン 「え・・・・っと」
女 「私はずっと彷徨ったままなんでしょうか」
シン 「・・・・さまよったまま?」
女 「あなたは、花火の打ち上げが失敗したらどうなると思います?」
シン 「花火の打ち上げが失敗したら?そりゃ、大勢の人が怪我をする。」
女 「そうです。でも、人だけではないんですよ」
シン 「えっ?」
女 「打ち上げに失敗した花火の魂はそのまま現世で彷徨うことになる」
シン 「どういうことですか?」
女 「花火の一生は短い。セミと似たようなものですね。成熟されるまではじっくりと時間をかけ、そしていざ成熟したら空に羽ばたき、間もなく命が尽きてしまう。それでも一度だけでも空に羽ばたけたことは彼らにとって幸せなことなんです。でも、その中には空に羽ばたけなかった花火もある。その報われなかった花火たちが、唯一空に還る方法が、花火を見ることなんです。自分と同じ花火を、空に打ち上げられた自分の姿を見ることにより、それらの魂は報われる。だから、私もその花火を見たいんです、自分自身を…みたいんです。」
シン 「その話・・・本当なんですか?」
女 「嘘だと思います?」
シン 「だって、そうだとしたら、あなたは・・・」
女 「えぇ、そうです。私は二十年前に打ち上げに失敗した、花火なんです。」
シン語り:あの後、俺はすぐに神社を後にした。正直、俺はほとんどの彼女の発言を信じることが出来ていない。今日会ったばかりの女性が、実は花火の魂でした。なんて、どうやって受け入れろというのだ。なんかの冗談だろ?でも、あの時の…「私はずっと彷徨ったままなんでしょうか」というセリフ。それを言った時の彼女の悲しげな表情が今でも頭から離れない。
シン 「四尺玉か・・・」
そんなことを思っていた時には、もう俺の考えは決まっていたのかもしれない。
もう一度、花火を見せてあげたい。例え、彼女が何者であったとしても。
シーン3
●場所:帰り道
SE:携帯
シン 「もしもし、ツバキか?」
ツバキ 「シンくん?どうしたの?」
シン 「いや、ちょっと聞きたいことがあって。」
ツバキ 「聞きたいこと?宿題の件だったら断るからね。」
シン 「違う違う。実は、20年前の花火大会のことなんだけど。」
ツバキ 「20年前?あのさ、20年前って私たちが生まれる前のことじゃん。どうしていきなりそんなこと…」
シン 「知らないの?」
ツバキ 「まぁ知ってるけど。」
シン 「今度、駅前のクレープ奢るから」
ツバキ 「トッピングは?」
シン 「二種類までなら許そう。」
ツバキ 「もう一声」
シン 「太るぞ。」
ツバキ 「うっ…分かった分かった。それで手を打つわ。それで、20年前の花火大会についてだっけ?」
シン 「あぁ、できるだけ詳しく知りたい。」
ツバキ 「えーーと、確かその年は……あ、今回の花火大会と同じ開催日だね。開催場所も今回と同じ。交通機関は流石に今よりは優れてないから、遠方からのお客を集めるのには難しかっただろうね。それでも、来客数は今までで一番多かったはずだよ。」
シン 「四尺玉…だろ?」