『情事』
雪がそぼそぼとふっていた
寒さがみちを塞いで
ところどころで胡坐をかいているそんな日だった
斜めにはしる白い点線のような雪にうたれて
きょうの情事を憂う
見慣れぬ街の風景は
絞られた雑巾のように薄汚れて
細身になりおとなしい
アルコホールの助けを借りながら
ビルヂングの隙間へきえていく
薄暗い世の中がいやでここにきたのかとおもいながら
裸になって
肌の色が闇のなかで変わる
微かにひかりながら息をやっとのことしているのだ
殺した粉のような声たちが部屋の隅から積もっていく
外では雪がさぞや悲しくふるのだろう
雨のようにつめたくはいつくばるのだろう
二度と戻らぬものすべて
いずれ清められてきえるのだ
湿ったひとびとの隙間を
欲をふらしたものらが抜けてゆく
そうやってすり抜けて逃げてみないことには
いまの自分をかんじることができない
なにかに捉えられてみてはじめて知ることがおおすぎる
この情事の意味がいつかみとめられるかのように
ひたひたと雪がふまれてとけてゆく
帰らぬ自分を見送ってみた
さよなら
さよなら
また逢う日などはありません
また逢う自分などありません
午睡のような雪が雨にかわって
雨蛙が悦び
ちいさな嗚咽をして死んだ