よいの?わるいの?
次の番の児童が書いた。
『悪い』
「ほかに ある人?」と先生は促した。
しかし、児童たちは ない、ないと首を横に振ったので 先生は次のことを言った。
「そうねぇ…。では ほかに『わるい』と同じような、似たような意味、類義語っていうのだけどあるかな。調べて」
「先生、わたし 調べました」国語係りのめがねを掛けた女の子が手を挙げた。
「はい」
「『いけない』が 悪いと類語って書いてありました」
「おれのじいちゃんは、おれがいたずらすると『けしからん』って怒るんだ」
ほかの児童の半分ほどが笑った。
先生は 黒板の『悪い』の横に『いけない』『けしからん』と書いた。
「先生、わたしは、花壇の花に水をあげないといけません。これは悪いことですか?」
「ぼくは、かぁちゃんに『かってにおやつ食べちゃいけません』ってげんこつくらう」
先生は、にっこり微笑むと ひとり頷いて嬉しそうに言った。
「必要や義務という意味と よくないこと、駄目っていう意味とあるね。『いけない』は、いつか話し合いをしましょう」
「えぇーーー」
「いろんな『よい わるい』が見つかりました」
児童たちは、次に出てくる質問を待っていた。そこで 先生は尋ねた。
「じゃあ、先生が忘れてくるかもしれないと国語辞典を用意していたことは よい? わるい? どっちかな」
「よいことぉ」勢いよく 男の子が言った。
「疑ったから わるい」忘れ物をよくする男の子が言った。
「そんなの 忘れたやつが 悪いんじゃん」
「今日は ちゃんと持ってきたもんねぇ」
「みんなで いっしょに勉強できたから よかったから 良いことだと思います」
先生は、『良い』という文字を黄色いチョークで囲んだ。
「では 今日の先生は コレにしておきましょう」と笑った。
児童たちは、誰からともなく拍手をした。
「『よい』という意味の反対語は『悪い』という言葉がほとんどです。でも、ひとつということは大事に扱わなくてはいけないと先生は思います。とても強い言葉だと思うのね。だから、本当に使っていいかを考えて 言ったり、書いたりして欲しいと思います」
そして、先生は、黒板に書かれた文字いっぱいに赤いチョークで大きなマルをつけた。
終業を告げるチャイムが鳴った。
― おしまい ―