『 流行 』
僕の記憶は時代が作り、世に連れた流行が、その流れを作っているのです。
その時、僕は只、生きることから逃げたくて大変でした。
しかし、時代と流行が僕を助け出し、また僕の足は地を踏みしめたのでした。
流行に乗ることは、時代旅行と同じです。
ただ緩やかなだけの煌めく水面も好きですが、やはり、激しい激流に魅力を感じるのも事実です。僕は、急な流れにどうしたら上手く乗れるのかを考えるようになり、来る日も来る日もボートに乗ることを試みましたが、大縄飛びに参加した時のように踏み出しては戻るのと同じでした。
そして、流行は乗らなければ、今ここに居るというそれだけのことであり、川の中の岩にも魅力を感じる日々でした。転がる石ころはやがて砂になり、綺麗な水に溶けていくだけですが、ボートに乗ることもまた、同じ様なことでした。
今日がつらければ、それは、つらい時代が作り出した日だからであり、明日はその先にあるのではないかと思いました。ボートが流行に乗ったからといって、どこまでもそれに乗り続ける訳にもいかなかったので、僕はまた、水の中に沈むところでした。
息をする日までの日は長く、気が付くと、時代は体をとうに過ぎており、空気が澄んでいると感じ取るまで、僕は生きていなかったのではないかと思う程でした。
過去に戻りたいという気持ちを封じ込め、時代に乗ることを選んだ僕が、正しいという保証はありません。でも、誰かに聞いてみたいのです。過去と未来、どちらを選びますか。
僕は、今現在の位置すら認識していないのではないかと常に不安でしたが、今日が今であることだけは確かでした。未来は僕の知らない時代の中にあり、本当に極たまに、流行に乗ってみようと、また今日も、ボートを作っているのです。作り終えたら、流れを読むことになります。命は大切ですが、流れに乗ることが、僕の使命だからです。