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みゅーずりん仮名
みゅーずりん仮名
novelistID. 53432
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『 信じる者は救われるかも知れない話 』

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私は烏賊の串焼きを見て、あの日のことを思い出しました。それは若い冬の日で、その日、確かに私は烏賊の様な気持ちになっていたはずです。当時、人形と暮らすことが流行となっていましたが、それはお金持ち達の中での話でした。私は、人形のような彼氏との生活を望むようになり、普通の社会人が購入できる値段になるのを待ちました。それが叶ったのは、願ってから10年目のことでした。はらわた等はもう関係なく、私は人形に夢中になりました。なぜなら、彼は、話さない人形だったからです。

私は彼に話しかけ、ひたすら頷く人形を見ていました。人形は一言毎に丁寧に頷き、私に微笑みかけます。すぐに私は立ち上がり、人形に接吻しましたが、彼はひたすら笑顔を見せるばかりでした。彼はどの様な格好にもなってくれ、私は彼の着せ替えが大好きでした。彼の肉体美は人間のそれと比べても遜色がないばかりか、私を夢中にさせるだけの魅力を兼ね備えていました。社会での生活とは別に、自分だけの世界に住む人形彼氏の話は誰にもしませんでしたが、実際、その商品は売れに売れまくっていました。しかし、インターネット上ではなく、やがてそれらは通信販売といういかがわしいとされる世界のみの販売となっていきました。

彼はいつでも、絨毯の下のキーで操作でき、それらは楽器の演奏と似ていました。禁句はあまりありませんでしたが、只一度、彼にロボットという言葉を投げつけた時にだけ、動かなくなった様な記憶があります。彼は特に、爽やかなお洒落が好きなようで、セーターを着せた日には一日中、笑顔を絶やしませんでした。

私は、社会生活の中でも、こっそりと指を動かして彼を動かすようになり、いつでも家に帰るのを楽しみにしていました。ある日のことですが、彼は突然、言葉を発するようになりました。なぜ突然、彼が言葉を並べるようになったのか、私は戸惑いましたが、そのままいつものように生活を続けました。彼に関しての報告は、ここまでです。

信じて私の帰りを待った彼が、勝ったのだと思っています。人形は人形であるべきであり、それが本来の形であるのにも関わらず、彼の笑顔は私が作り出したにも関わらず、私の癒しはそこにしかないのです。しかし、人形と人間の境界線はどこにあるのか、未だに私は分かりません。そして、果たして人形との出会いが正しいものであったのか、少し違う未来があったのではないかと不安になるのです。考えれば考えるほど、癒しと笑顔の湧く場所を思い、信じる者は救われるかも知れないと思うのでした。