兎に菊花
アリスは兎が穴から落ちたのを見届けて、「まぁなんて危ない!人が落ちたら大変だわ!」と思いました。
家からシャベルをもってきて、せっせと穴を埋めます。
ずいぶん深い穴だと思っていたのですが、埋め始めてみると案外そうでもなかったようです。1時間ほどで穴はすっかり埋まって、地面は平らになりました。むき出しの土の上に、落ち葉をかけて完成だ、というところで、アリスは穴の底の兎のことを思い出しました。
「じゃあこれは、うさぎさんのお墓だわ!」
アリスは土の上に菊の花をひとつ添えて、きびすを返しておうちに帰っていきました。
森の中、残された黄色に、落ち葉が降りつもります。
始まらなかった物語が、誰にも知られないまま、静かに静かに埋もれていきます。