『 たいぺんだった話(追憶)』
未年の今年は、きっと平和なものになるだろう。
俺は窓を開け、空を眺めた。
新年の青空にかかる雲は薄く、それを阻むものは何も無い。
白い飛行機が遠くの空を飛び、黒いカラスが隣の屋根に止まっていた。
そして、俺は去年を思い出した。
雲にはアーティストが付いている。
空に浮かぶ顔やイラストが人を勇気づけるんだ。
たいぺんなことがあった後、俺は気付いた。
自然が人を喰らうように、人も自然を喰らっていたんだ。
俺は雲を喰らい、体がふわふわに膨らむことを知った。
パンの始まりは、案外、そんなことがきっかけだったのかも知れない。
土の少ない都会の生活は味気なく、
たいぺんな話も7.5日だ。
それから、俺は網戸を閉め、部屋を今年の風にした。
去年が昨日である日のように、きっと、今も昨日になるんだ。
たいぺんだった話は追憶になり、俺はその日の風を吸い込む。
思い出すのはただ、たいぺんだったことだけなんだ。
俺は少し寂しくなり、テレビを付けた。
喧噪はそこにしかなく、俺は肩をすくめた。
作品名:『 たいぺんだった話(追憶)』 作家名:みゅーずりん仮名