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おいしいものは だれのもの?  Part.3

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3.ほんとうのことなんていえない



「ただいまあ!」
 玄関のドアを開けたとたん、おとうさんのおこった声がとんできました。
「カノン、おそいぞ! みんなをどれだけ待たせたと思ってるんだ!」
 のんちゃんはびくっとしました。カノンというのはのんちゃんのほんとうの名前です。そして、のんちゃんのうちでは、朝ごはんはみんなそろって食べるというのが決まりでした。
「のんちゃん、おそいよお!」「おなかがすいちゃったよ」
 きょうだいみんなが、口々にいいます。
「ごめん、ごめん。でも、いいものもらったんだよ、ほら」
 のんちゃんは、さっきのいちごをみんなに見せました。
「おさんぽしてたらカンじいさんに会ってね、そのときもらったんだ」
「わあ、すごい」
 きょうだいたちは大よろこび。
「大きいなあ、それにいい色をしている。こいつぁ上とうのもんだぞ」
「ほんとうね、あとでみんなで食べましょ」
 おとうさんとおかあさんもびっくりしています。
(良かった、ばれてない)
 のんちゃんは、ほっと胸をなで下ろしました。しかし、その安心もつかの間。ごはんをたべはじめると、さっきいちごをたくさん食べたせいで、おはしが進みません。
「どうした、カノン。今日はぜんぜん食べてないじゃないか」
「まさかあんた、ダイエットなんて考えてるんじゃないでしょうね。いつもいってるでしょう、あんたは育ちざかりなんだから、ごはんはしっかり食べなきゃ、元気な身体にならないって」
「そんなことないよ! いつも通りだって」
 おとうさんとおかあさんにあやしまれるまいと、のんちゃんは、いっしょうけんめいごはんをのどのおくにつっこみました。もしごはんを残しでもしたら、いちごを食べたことが、ばれてしまうと思ったからです。
 ごはんを食べおわってから、みんなでいちごを食べはじめました。
 少ない量でもみんなで分け合い、楽しそうなきょうだいたち。少しでも大きいのを子どもにわたそうと、自分は小さいのばかり選ぶ、おとうさんとおかあさん。
 のんちゃんの胸は、ちくりと痛みました。でも、いまさらほんとうのことなど、言えるはずがありません。もし正直にいってしまえば、おとうさんとおかあさんは、どんなにおこることでしょう。きょうだいたちにばれたら、うそつきだとさんざんいわれ、遊んでくれなくなるかもしれません。
 それを考えると、のんちゃんはどうしてもいいだすことができませんでした。そして、いつものようにいちごをよろこんで食べる、そんなふりをしなければなりませんでした。
 結局、のんちゃんはいわずじまい、みんなも何も知らずに、いちごを全部食べきってしまいました。
(よかった、ばれなくて)
 のんちゃんはほっとしました。しかし、心のどこかでどきどきして、こう思っていました。
(これで、ほんとうによかったのかな……)