おいしいものは だれのもの? Part.2
2.約束はしたけれど
その帰り道。
のんちゃんはかごの中のいちごが、どうしても気になって仕方ありませんでした。
何せ、いちごはのんちゃんの大好物。そのうえ、朝ごはん前にたくさん歩き、おなかがすいたのんちゃんには、このいちごはいっそうおいしそうに見えたのです。
「ああ、早く食べたいなあ」
思わず手をのばしてから、のんちゃんははっとして手を引っこめました。
「だめだめ、カンじいさんと約束したもん。これはみんなのものだよ」
のんちゃんには、おとうさんとおかあさん、それに11人のきょうだいがいます。人さまからいただいたものはいつも、みんなで分けていました。
「ひとりで食べちゃ、いけないよ」
それでもやっぱり、美味しそうです。
「どうしようかなあ」
さんざん迷った末に、のんちゃんはまわりを見回しました。
「カンじいさんも見てないみたいだし、ひとつくらいならいいか」
のんちゃんはいちごをひとつつまんで、ヘタをとると、ぽいっと口にほうりこんでしまいました。
「おいしーい!」
さすが、野菜や果物を作る名人のカンじいさん。いちごの味はかくべつです。こんなにおいしいと、ひとつだけでは物足りません。
「もうひとつだけなら、いいかな」
のんちゃんはまたひとつ、口にほうりこみました。
すると、どうしたことでしょう。ひとつだけのはずだったのに、またひとつ、またまたひとつ。止まらなくなってしまいました。
どんどんどんどん食べつづけ、気がついた時には、いちごはかごの半分にまでへってしまっていました。
「しまった! 食べすぎた!」
まずいことをしてしまったと、のんちゃんは思いました。しかし、すぐにこう思いなおしました。
(だまっておけば、きっとばれないよ。だいじょうぶ、さいしょにどれだけ入ってたかなんて、だあれも分かりっこないんだから。だいじょうぶ、だいじょうぶ)
のんちゃんは心の中で、自分に言い聞かせました。
(だいたい、わたしがこんなにたいへんな思いをして、はこんでるんだもん。わたしがいちばんたくさんもらえなくっちゃ、わりにあわないよ)
だからだいじょうぶ、だいじょうぶ。のんちゃんは心の中で、何度も何度もつぶやきました。
作品名:おいしいものは だれのもの? Part.2 作家名:LUNA